10代の後半だったか20代の前半だったか、ハッキリ覚えているのがこのアルバムは3度目のチャレンジでやっと良さを感じる事が出来た。このアルバムの良さを感じた瞬間にバァーっと私の世界観が広がった感じがした。
さほど難解でもないが、それまでポップスやロックしか聴いていなかった青二才の私にはどう楽しんで良いのか理解しにくいアルバムだったのは確かだ。
このアルバムは1976年発表のライ5作目のアルバムで、それまでのアメリカ国内からちょいと外に出ていたルーツ・ミュージックが、一気にメキシコやハワイにまで飛び、聴いているこちらも世界旅行している疑似感覚が楽しめる。
アルバム自体もライの最高傑作と言われる通りに充実した出来で、何より個人的にこのアルバムは曲順がバツグンに良いと感じるのだ。
レッドベリーの「ブルジョワ・ブルース」からやや怪しめに始まり、テックス・メックスのフラーコ・ヒメネスのアコーディオンが入った曲でほのぼのとA面は終了。
B面はゴスペルっぽいコーラスの「スマック・ダブ・イン・ザ・ミドル」から始まり、ブラック・ミュージックからテックス・メックス、そしてギャビー・パピヌイ参加のハワイアンへと、無理なくいろいろな国の音楽が溶け合ってゆく様が何より気持ちいい。
そして最後にまたレッドベリーの「グッドナイト・アイリーン」で締めくくられるのだが、最初のやや陰鬱な「ブルジョワ・ブルース」とは違い、まるでレッドベリーが長い人生を重ね、しだいに温和に様変わりしていったかの様だ。
歌詞も「ブルジョワ・ブルース」では黒人故の差別を嘆いていたが、「グッドナイト・アイリーン」ではやさしく愛を歌っている。
このアルバムのコンセプトは”レッドベリー”が何らかのキーパーソンである事は間違いないと思う。音楽旅行と共に人生を巡る旅路を現しているのだろうか?
それに上記したが、このアルバムはゲスト・ミュージシャンの力量も個性も強烈で、メキシコのテックス・メックスのアコーディオン奏者”フラーコ・ヒメネス”、ハワイアンのスライド・ギターで”ギャビー・パピヌイ”が双頭で、「スタンド・バイ・ミー」等でコーラスを担当した”ボビー・キング”やギャビー・パピヌイの相方でもある”アッタ・アイザックス”もまたこのアルバムの色どりを決定的なものにしている。
USオリジナル盤
Side-A : MS-1-2254 RE1 LW2
Side-B : MS-2-2254 RE1 LW2
UKオリジナル盤
Side-A : K54083 A1
Side-B : K54083 B1
インナー
一応、上にUSオリジナル盤などと書いたが、このバリエーションしか私は見たことがない。
Discogsを見てみても、近年の再発レコードまで1976年のプレス以外に記載がない。そんなに売れなかったのだろうか?
US盤のサウンドは、ライのレコードにしてはややヌケがイマイチだが、それがまた土臭いにおいがしてこのアルバムに合ってる。
UK盤は中低音が薄目で軽めのサウンド。さすがにここら辺はUS盤が良いサウンドしていると思う。
このアルバムは当時のライがそこまで意識していたのか分からないが、ここまで他地方の音楽をなめらかに溶け合わせたこの時期のライの創造性は素晴らしいと言うほかない。
正にこの時期はライの音楽的ピークで、音楽に流れている歴史や文化の一番重要な素養を、見事に掴みとれているからこそこのアルバムを作り上げられたのだろう。
その観点からも、このアルバムがライの最高傑作と言うのは間違いない。
個人的にも、若い時に自身の世界観を圧倒的に広げてくれたこのアルバムには感謝しかない。このアルバムに出会わなければ、私の人生も大きく変わっていたんだと思う。