ウィルソン・ピケットによるヒットで有名な「ダンス天国」の原作者で、自らもI Like It Like That で一発当てたニューオーリンズの歌手、クリス・ケナーの50年代から60年代末にかけて録音した曲を集めたものです。
アラン・トゥーサンが大きく関わった60年代のはじめのインスタント時代の曲を集めてアトランティックで66年に発売されたアルバム Land of 1000 Dances (「ダンス天国」)がこの盤の最初の12曲を曲順通りに占めています。今回は彼のベストで公式では初めて50年代や小レーベルでの活動も一緒に収めていて、彼のシングルデビューの曲やファッツ・ドミノでヒットしたデイヴ・バーソロミューのバンドのバックがご機嫌な Sick and Tired なども聞くことができます。アルバムの「ダンス天国」はレイ・チャールズを思い起こさせるコール・アンド・レスポンスにトゥーサン流のアレンジを施したものが多く、トゥーサンが抜けた直後のインスタント録音を含めてそののどかな感じがクリス・ケナーの少しハスキーな声にしっくりします。
また彼のベストでは人となりを記して今までで一番充実したライナーノーツが書かれていて、「ダンス天国」に最初に「ナーナナナナ」をつけたと思われるカニバル&ザ・ヘッドハンターズのことや、ファッツ・ドミノとの因縁、彼のもう一つの名曲 Something You Got のニューオーリンズ内外での広がりなども窺えます。本人は踊れないのにダンス曲が多く、私生活も声質もブルースがふさわしいものの、発売当初はカットされた「ダンス天国」のイントロにも現れているゴスペルのルーツも入り交じったクリス・ケナーの人生にも思いが馳せます。