Steve Reichの1977年のthe Kitchenでのライブ録音。彼の作品はスタジオでの緻密な演奏が圧倒的で、Terry RileyやLa Monte Youngらのミニマリストと比較するといかにも現代音楽然とした緊張感が時に潔癖すぎるようでもあります。ところがこのライブ録音はそういう高尚さは少なく、ライヒ作品にしては珍しいホットな感覚があります。一曲目からミニマルなパターンを6人(本人含む)のピアノが多重演奏しており、ライブならではの微妙なゆらぎが最高です。ついでPendulum Musicはスピーカーの前にぶら下げた無数のマイクロホンを「演奏者」が無作為に揺らすことによって発生したfeedbackを拡張したもので、偶発的なパターンが連なる不穏な空間です。次の曲は録音済みの3演奏に加えて生で演奏したバイオリンを重ねたもので、単調な構成に聞こえますが意外な暖かみがあります。4曲目は1曲目と同様5人の奏者がそれぞれのクラベスを叩いたものですが、1曲目よりも音階が狭いため渦のようなゆらめきが気持ちよいです。最後もパーカッシブな作品ですが、ストイックながらガムランのような盛り上がりにわくわくさせられます。
この作品を聴いていると人間が演奏することがどういう美しさとして現れるのかがよく分かる気がします。Reichという優れた作曲家の厳密な作品だからこそですが、このように(わずかですが)ルーズに演奏されることによりこれほどに魅力的になるということに、音楽の不思議があります。私のようにライヒが苦手な人こそ手に取ってほしいと思います。