12月24日に放送された『M-1グランプリ2023』(ABCテレビ・テレビ朝日系)は、令和ロマンが史上最多の8540組の頂点に輝き第19代王者となりました。
今年は新しく審査員に海原ともこが加わりどんな審査になるかが大会前に注目されましたが、番組放送中に「ともこ姉さん」がX(旧Twitter)のトレンド入りするなど、視聴者からは好意的な反応が多かったようです。
そんな中、本大会のキーワードの一つに「歌ネタ」への低評価があげられます。
◆礼二「歌ネタ以外を」大吉「歌ネタの宿命」
BUMP OF CHICKEN「天体観測」やYOASOBI「アイドル」へユニークすぎる伴奏をするボケのネタを披露したダンビラムーチョへ、審査員の中川家・礼二は「歌ネタ以外を聞きたかったです。歌ネタって一般的に、ちょっと漫才師としては作りやすいんで」とコメント。
ナイツ・塙から内海桂子師匠のモノマネで「あのね、私は歌ネタが大好きです」というコメントもあったものの、ダンビラムーチョは得点631点で8位でした。
また、錦野旦(にしきのあきら)『空に太陽がある限り』の歌詞を独自解釈したネタのモグライダーにも歌ネタからみのコメントが…。
博多大吉は「歌ネタの宿命というか、歌詞とか展開をお客さんは分かってるので、それをどう乗り越えていくか、いかに間を詰めていくかで、もうちょっと爆笑をとれたらよかったなと思いました」と、皆の期待が大きかったコンビゆえの点数の低さだとフォローしつつ採点理由を説明。モグライダーは632点で7位という結果になりました。
たしかに過去、歌ネタでM-1グランプリ優勝を制した例はありません(2020年準優勝のおいでやすこがは歌ネタでしたが)。やはり歌ネタは審査員ウケがよくないのでしょうか?
構成作家の大輪貴史(おおわ たかふみ)さんに聞いてみました。大輪さんはかつてピン芸人「大輪教授」として活動し、2007年にはR-1ファイナリストに選出。現在はお笑い養成所の講師や、複数のお笑い事務所による若手芸人のネタ見せもつとめています。
◆「歌ネタ」は点数が伸び悩んだ
――今大会では「歌ネタ」が審査員コメントで重ねて話題になりました。
<お笑いは定型を崩して笑いをとることが定石(じょうせき)ですよね。歌って歌詞とメロディが先に提示されているので、それを崩すだけでも笑えちゃうし、ウケやすい。でもM-1決勝レベルまできちゃうと、“オリジナリティを求めた時にどうなの?”と思う審査員目線もわかるんですよね。
ダンビラムーチョの大原さんは歌唱力が高いので、場持ちします。それだけで観客の満足度は高くなります。しかし、それは長い時間ボケなくても空間が埋まってしまうということにもなるので、笑いの数や量を競うコンテストにおいては、諸刃(もろは)の剣になりかねません。
審査員の方々は「一曲目の長さ」を言及していました。その一曲目の原田フニャオさんのツッコミがバッチリ決まれば、大きな笑いの可能性はあったと思います。しかし、あの場では残念ながら、使った時間を回収するほどの笑いが起きませんでした。…でも、名前がフニャオさんですからね。それも愛らしく思えちゃいました。フニャオって色んな問題が解決する名前ですね(笑)>
◆シシガシラ ハゲネタなら敗者復活でいくしかない
――シシガシラは敗者復活では歌のハゲネタで大ウケしましたが、決勝で別のしゃべくりのハゲネタで勝負をかけていましたね。
<近年のコンプライアンスを考えると、ハゲネタで決勝にいくのって相当難しいと思うんですよ。『人を傷つけるネタは……』と判断材料のひとつにされてしまうのは今の時代だと当然のこと。
予選も審査員制度である以上、ハゲでM-1の決勝にいくなら、もう敗者復活しかなかったんですよ。シシガシラは大衆の力で勝ち上がって、決勝の舞台でハゲネタを披露できたわけです>
――しかし、あまり点数は伸びなかった。同じように伸び悩んだ組としては初出場のくらげも挙げられますね。
<今年はある程度の型があるフォーマット式漫才が軒並みやられてしまいましたね。罠を仕掛けた城(=フォーマット)が、大軍(=ボケ数の多いスタイル)に押しつぶされてしまった印象です>
◆モグライダー ラストの順番に泣かされた
――モグライダーもフォーマット式漫才といえますよね。今年は錦野旦「空に太陽がある限り」、2年前には美川憲一「さそり座の女』」をネタにしています
<そうですね。今回、最初に芝さんが歌の見本を見せる時点で笑いがとれていたのは、以前のネタと大きく変わった面白いところだったと思います。
それでも、9番目のくらげとラストのモグライダーは順番に泣かされました。令和ロマンの手法でウケてしまったら、フォーマット式は厳しかったと思います。
そういう意味で、今回は本当に最初から令和ロマンの大会だったんでしょうね。同時に、近年のM-1の苦労人ブーム、地下芸人ブームがここで一旦(いったん)は落ち着いたような印象があります。またM-1のブームが変革の時期に入ったのではないでしょうか>
<文/もちづき千代子>
【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。度を超したぽっちゃり体型がチャームポイント。Twitter:@kyan__tama