ピックアップ - 東京女子医科大学

ピックアップ

2017年08月25日女性医師のロールモデル実習
女性医師のロールモデル実習
先輩の働く姿に接して将来のライフプランを考える
 
東京女子医科大学の卒業生は全国各地の医療施設で活躍している。
医学部の学生がそうした先輩たちに接すれば、自分の将来をより具体的にイメージすることができる。
それを実践する機会が、「女性医師のロールモデル実習」である。
 

自ら実習先を決めてアプローチ
 「女性医師のロールモデル実習」は医学部3年生を対象に、毎年夏季休暇中に行われる。人間関係教育の一環として組まれているプログラムで、学生が地域医療に従事している先輩女性医師を訪れ、医療の場における患者さんとの接し方や対話、診療の様子などの見学を通して、医師の役割やプロフェッショナリズムについての“気づき”を得るとともに、女性医師のライフサイクルを理解して将来のキャリア開発に役立てることをめざしている。
 このプログラムを担当している岩﨑直子准教授(第三内科学・糖尿病センター)は、「女性医師として活躍している先生方と接することにより、医師という仕事のやりがい、コミュニケーションの重要性に気づき、キャリアプランを考え始めてほしいと思います」という。
 学生を受け入れてくれる医療施設は全国各地に点在している。夏季休暇に帰省する学生が、その地域の医療施設を実習先とするケースが少なくないからだ。実習先の医療施設はボランティアで学生を受け入れているが、こうした先輩女性医師の積極的な協力があるのも、このプログラムの見逃せない特徴である。
 学生たちは実習を希望する医療施設に対し、自らアプローチして受け入れの依頼を行う。受入先の女性医師は実習が終わると、いろいろな角度から実習生を評価するが、このアプローチの仕方も評価ポイントの一つとなっている。
 では、昨年の夏季休暇に行われた実習のうち、都内2つのケースを追ってみることにしよう。1つは4人の学生が参加した三軒茶屋病院(世田谷区三軒茶屋)、もう1つは下平レディスクリニック(杉並区高円寺南)での実習である。

盛りだくさんな内容のプログラム
 三軒茶屋病院は内科と腎臓内科に特化した比較的大きな病院である。院長の大坪由里子氏は1997(平成9)年に女子医大を卒業後、女子医大病院腎臓病総合医療センター内科に入局。そこでご主人の大坪茂氏(東都三軒茶屋クリニック院長)と知り合って結婚。3人の子どもを育てながら地域医療に尽力し、2011(平成23)年に院長に就任した。
 義母である大坪公子名誉院長も女子医大出身で、ロールモデル実習にはいち早く賛同している。したがって、二代続けて実習生を受け入れているわけだ。病院を運営している医療法人社団大坪会は、都内をはじめ関東一円にさまざまな医療関連施設を擁している。そうした施設の見学や多くの女性医師との交流、さらに大坪茂氏による「女医と結婚して」というユニークな講話まで組み込まれているのが、実習プログラムの大きな特徴だ。
 2日間の実習の初日、午前9時半に三軒茶屋病院を訪れた4人の学生たちは、まず大坪院長と面談。実習内容とタイムスケジュールについて大坪院長が説明し、「みなさんに幸せになってほしいからロールモデル実習を引き受けています。生き方や考え方の違ういろいろな女性医師と接する中から、そのヒントをつかんでください」と挨拶した。
 午前中は女子医大出身の伴野麻悠子医師、坂東美和医師とそれぞれ懇談。伴野医師は目下子育て中で、週に4日間、午前9時から午後5時45分までの勤務である。「子育て中も働き続けたいと希望していたところ、大坪院長が快く受け入れてくださいました。院長からは子育て中の働き方や家事のノウハウをたくさん学んでいます」という伴野医師の言葉は、実習生たちの将来に対する漠然とした不安を拭うものだったようだ。

 
子育て中の伴野医師に従って院内を見学。
 坂東医師は結婚後、外交官夫人となって海外へ渡ったため、1年間医師の仕事から遠ざかったことがある。そうした経験談と、「患者さんと接するときは五感を駆使してより多くの情報をつかむことが大切。そうすれば自ずと次の手を早く打つことができます」という話に、実習生たちは興味深く耳を傾けていた。

仕事と家庭を両立できることを確認
 午後は2015(平成27)年秋にオープンした関連施設・東都三軒茶屋クリニックへ移動し、40台のベッドサイドコンソールを備えた最新鋭の人工透析施設を見学。ホテルのようなアプローチとロビー、明るく清潔感あふれる透析室などに、実習生たちは一様に目を見張っていた。
 見学後、透析担当の加藤麻衣医師と懇談。加藤医師は女子医大出身ではないが、2人目を妊娠中でまもなく産休に入るとのこと。「産休・育休で仕事から離れると復職できないのではないかと不安でしたが、ここは定時勤務で仕事と家庭を両立できる職場です。子どもができても仕事を続けられる環境が整った施設が増えつつありますから、みなさんも心配せずに婚期を逃さないでください」というアドバイスに、一同笑顔でうなずいていた。
 次は大坪茂氏の「女医と結婚して」という講話。「妻が院長になるほどバリバリ仕事をするとは思っていませんでした。家事もこなしてくれて、何もしない私は妻に頭が上がりません」という話は実習生の笑いを誘い、結婚観を考える一助となったようである。
 実習2日目も、午前中は三軒茶屋病院の2人の女性医師と懇談しながら病棟内を見学。午後は医薬品メーカーによる薬品説明会に出席したあと、千代田区紀尾井町のホテルニューオータニ内にある関連施設・東都クリニックを訪れた。
 人間ドックを主体とした快適な院内を見学後、皮膚科の竹内瑞恵医師の診察場面に立ち会った。竹内医師は大坪由里子氏と同期生。「一生診療に関わっていけるのではないかと思い、皮膚科医の道を選びました」という竹内医師の話は、実習生たちの参考となったに違いない。

 
東都クリニックの皮膚科・竹内医師の診察の模様を見学。
 実習を終えた4人の学生からは、「1人の女性医師に付いて回るのをイメージしていましたが、たくさんの先輩の話が聞けてとても充実した実習でした」(T.N.)、「どの先生も自分のスタイルを持っていて、ポジティブに仕事をされているのが強く印象に残りました」(M.S.)、「大坪院長は楽しそうに仕事をされていて、器の大きさを感じました。私も大いに見習いたいと思います」(S.S.)、「結婚して出産すると復帰が難しいと思っていましたが、それを支援する環境が整っているところがあるのを知って希望が持てました」(M.F.)といった感想が聞かれた。
 

患者さんと医師の距離の近さを実感
 一方、下平レディスクリニックでは、K.Y.さんが中島由美子院長からマンツーマンで実習を受けた。同クリニックは中島院長の父親が開業(当初は下平クリニック)した医院で、現在は婦人科を専門としている。
 中島院長は1982(昭和57)年に女子医大を、86(同61)年に同大大学院を卒業後、女子医大病院や同第二病院(現・東医療センター)、至誠会第二病院などに勤務。そして95(平成7)年に下平クリニックに転じ、2004(平成16)年から改称した下平レディスクリニックの院長を務めている。
 同クリニックを実習先に選んだYさんは、その理由について「母が院長先生を信頼し、理想の女性医師と評しているからです。検診で子宮がんを疑われた母が中島先生の診察を受け、子宮がんではないときっぱり診断されたのです」と説明する。女子医大を卒業し、現在糖尿病センターの内科医として勤務しているYさんの姉も、ロールモデル実習で中島院長にお世話になったとのことだ。
 2日間、中島院長に付き添って診療の様子を見学したYさんは、「先生が患者さんにやさしい笑顔で接しながら話を

下平レディスクリニック・中島由美子院長の診察に立ち会う。
傾聴されている姿がとても印象的でした。地域の“かかりつけ医”として信頼されているのがよく伝わってきました」という。また、「女性の苦しみや悩みを和らげ、救ってあげられる医師になりたいという思いが、実習を通してさらに強くなりました。結婚と出産を見据えたライフプランを考えるうえでも、先生は理想のロールモデルでした」と振り返る。
 「私は時間をかけて患者さんの希望を聞き、一緒に治療方針を決めるようにしています。そこが病院との違いであり、患者さんとの距離が近いといわれるゆえんでもあります。Yさんがそのことに気づいてくれたら幸いです」
 そう語る中島院長はYさんについて、「礼儀正しく、一生懸命実習に取り組んでいました。医師は患者さんに笑顔で接することが大事ですが、Yさんはなによりも笑顔が素敵です。きっと、誰からも好かれる女性医師になってくれるでしょう」と評してくれた。
 
「Sincere(シンシア)」7号(2017年1月発行)

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