そうだ 台湾映画、見よう。 中国資本に侵食される台湾エンタメ界の苦境と希望 Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン)

栖来ひかりが綴る「日本人に伝えたい台湾のリアル」

2018年3月20日

 2014年に起こった「ひまわり学生運動」を支持したと中国のネット上で炎上し、翌年に中国国内で予定されていた多くのステージを取り消されたのが、最近日本でも知られるようになったシンガーソングライターのクラウド・ルー(盧廣仲)。2016年には台湾の俳優レオン・ダイ(戴立忍)が、「台湾独立派」とのレッテルを貼られ中国ネット世論で炎上、「自分は正真正銘の中国人」と謝罪するまでに追い込まれたが、当時レオン・ダイが主演していた中国ドラマは、その出演部分を削って放映されたという。

 2017年の春節映画として公開された『健忘村』は、監督の陳玉勲が「台湾独立派」だとネットで炎上、中国での上映は早々に打ち切られ、良くできた作品だったにも関わらず「中台合作映画」として史上最高額の損失を叩き出した。同じ時期に、中国政府が接触を禁じた台湾の芸能人55人の名簿が北京映画界から流出、これはいわば中国芸能界の「デスノート」だとして業界は騒然となったが、結局最後までリストの中身および誰が誰にリストを流出させたのかは不明のまま、不安だけが増幅された。

 また中国は、台湾の映画製作者が中国人投資家から資金を募る際に、主役・準主役級の出演者に必ず2人以上の中国人を用いなければならないなど、様々な制限を設けている。中国市場での公開が条件となるので、脚本や演出に当局の反感をかうような部分がないか、製作人や出演者の過去に香港・台湾独立運動に関わったり支持するような発言をしていないかが厳しくチェックされる。大人しく中国側の要求に従い、政治については一切口をつぐむことで、中台のエンタメの壁はどんどん低くなっているのが現状だ。

 台湾では、近ごろ中国政府が発表した台湾の若者や起業家を中国に呼び込む優遇政策「対台31条」が話題となっている。すぐに目立った影響は出ないかもしれないが、長期的にみて台湾社会の主権に多大なダメージを与えるのではないかと観る識者は多い。しかし上述したように、台湾エンタメ界においては、ゆっくりとした言論封鎖と統合が随分前からじわじわと進んでいる。

台湾エンタメのすすめ

 一方で、中国に忖度しない作品をつくろうという動きも盛んだ。大ヒットした2008年の『海角七号 君想う、国境の南(原題:海角七號/監督:魏徳聖)』以降は、台湾アイデンティティーの高まりに比例して「台湾らしさ」を力強く盛り込んだ映画が沢山製作されるようになり、冒頭で紹介した『オンハピネスロード』もその一つといえるだろう。最近では『おもてなし』など日台合作映画が製作・公開されたほか、5月には注目作『軍中楽園』も日本初公開となるし、音楽の方面でも来日する台湾のアーティストが増えている。

 近年の台湾ブームのおかげで様々なレベルにおいて日本人の台湾理解が進んでいる今、台湾エンタメを楽しむこともまた、日台の交流や理解を深める手段となるのではないだろうか。観たい、聴きたいと思う日本人が増えれば、配給に取り組む映画会社や上映する映画館も増えるだろう。日本をはじめ海外での需要が広がることで、今の極端な中国マーケット依存からリスクが少しでも分散される可能性もある。台湾の自由で健康的な創造空間が維持され、さらに盛んになることを期待したい。

(C)幸福路映畫社有限公司
栖来ひかり(台湾在住ライター)
京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)、『山口,西京都的古城之美』(2018年、幸福文化)がある。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story』


  
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