アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道・日本(ATWS2023)で明らかになった日本の魅力、地域のレベルアップに必要な中長期視点と人材育成|インバウンドノウハウ|JNTO(日本政府観光局)
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アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道・日本(ATWS2023)で明らかになった日本の魅力、地域のレベルアップに必要な中長期視点と人材育成

アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道・日本(ATWS2023)で明らかになった日本の魅力、地域のレベルアップに必要な中長期視点と人材育成

アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道・日本(ATWS2023)で明らかになった日本の魅力、地域のレベルアップに必要な中長期視点と人材育成

2023年9月に開催された「アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道・日本(ATWS2023)」を経て日本のアドベンチャートラベル(AT)は現在世界の注目を集めています。ATWS2023で明らかになった日本のATの魅力や、さらなる発展に向けた課題や展望について、日本のAT黎明期から普及啓発活動を続けてきたAdventure Travel Trade Association (ATTA) Business manager, Asiaの國谷裕紀さんにお話を伺いました。

日本のATは北海道から全国へ拡大

―はじめに、國谷さんのATとの出会いや日本のAT黎明期について教えてください。

私がATという言葉を知ったきっかけは、旅行会社のシンクタンク部門に在籍時代、北海道の鶴雅グループの大西雅之代表にお会いでき、当時同社の海外市場を担当されていた高田茂部長から「ATというすばらしい取り組みをご存知ですか?」と教えていただいたときです。201610月のことでした。

その頃の旅行業界はオンライン・トラベルビジネスや個人旅行化傾向がさらに強まり、従来のビジネスモデルからの方向転換が課題となっていた時期でした。

そんな時に出合ったATは、地域の方々が主体的に取り組む「地域主語」のマインド、環境・文化・コミュニティ保全等のサステナビリティや地域に適切にお金が落ちる経済の循環を大切にしていること、一過性のものではなくサステナブルな営みであることを知り、日本の観光課題の答えになるのではと直感しました。

20174月、高田茂部長とふたりでATTAのシャノン・ストーウェルCEOに会いに行き、「北海道でもATの普及に取り組みたい」とプレゼンテーションをしたところ、「アジアでのAT促進を検討していたところで、あなた達の提案はミッシングピースがはまったように感じる。日本・北海道で着手してみたい」と同年9月にはATTA幹部の北海道訪問が実現しました。

そこから、すでにサミットに参加されていた北海道運輸局、そして北海道経済産業局にご協力いただきながら、北海道が日本のAT先進地となるべく官民が力を合わせた取り組みが始まりました。

現在も、北海道運輸局のホームページにどなたでも閲覧できる北海道AT推進・マーケティング戦略の資料がアップされていますが、その充実度からも当時の関係者の力の入れようと情熱が伺えます。

こうして徐々に北海道でのATのベースが出来始めたころに、長野県と沖縄県がほぼ同時期に新たに関心を持ってくださり、個々の地域での取り組みが増えていった、というのが日本のAT黎明期の流れです。

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© ATTA / Hassen Salum

ATに関心を持つ地域に向けてATの魅力をどのようにアピールしていったのでしょうか?

導入として、まずAT関連事業者を対象に情報交換・ネットワーキングを目的とした「アドベンチャーコネクト」というイベントを各地域で開催しました。

そこで「地域主語」のマインドの重要性や地域への経済効果、サステナビリティについて説明すると、皆さん「それはいい」と頷きながら話を聞いてくださいました。

私はAT自体がとりわけ特別なツーリズムというわけではなく、観光を通じて地域を良くしたいと思う方々が所属や立場を超えて取り組むきっかけに使いやすいのではと思っています。地域が盛り上がり、これまでは個別に動いていた事業者同士や、観光客の出入りを遠巻きに見ていた地域住民の方々、もっと言うと地元の高校生や大学生たちもATによって新たにつながることができる。ATには、そんな触媒のような役割もあると考えています。

高い評価を得たATWS2023で明らかになった日本の魅力

―先頃、北海道を拠点に展開したATWS2023が閉幕しました。どのように受け止めていますか?

ATTAのシャノンCEOが「これまで実施してきたサミット規模の大型イベントの中でもトップクラス、最高のATWSだった」と言ってくれたように、参加者からの評価が非常に高いイベントだったと思います。

その要因を考えると、まず一つ目は北海道の雄大な自然に、世界でも非常に注目度の高い日本文化、そして地域固有のアイヌ文化のストーリー性がしっかりと重なりあった北海道ATのあり方を具現化できたこと。これが非常に大きかったと思います。

それから二つ目、日本の国民性でもある緻密さです。他国では見られないような丁寧なスケジューリングや、問い合わせがあれば可能な限り速やかに対応するなどの対応の細やかさに、誰もが安心して旅程を楽しむことができたと聞いています。

さらにそこに、目的地まで過剰な負荷をかけずにたどり着くことができる世界屈指のインフラストラクチャーが加わり、それらを総合して「最高のATWSだった」という、これ以上ない評価を得られたのではないかと考えています。

この二つを成し遂げられたのは北海道実行委員会(北海道庁、北海道運輸局、北海道経済産業局、北海道観光振興機構、札幌市、釧路市)、観光庁、JNTO、そして全国の皆様が並々ならぬご支援とご尽力をしてくださった結果と思います。この場を借りてあらためて御礼を申し上げます。本当にありがとうございます。

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©Hassen Salum

 

―一方で、「ガイドの英語レベル向上」や「サステナブルな取り組みに対する情報提供」など、今後対応が必要な課題も明らかになったと伺っています。

 おっしゃるとおりです。ただし、それらの課題に対する答えは、「ガイドの英語力向上」も重要ですが、より根源的な「コミュニケーション力を磨くこと」もあわせて考える必要があると感じています。

例えば、ペットボトルを削減し、環境負荷を減らしていくことはもちろん重要ですが、同時に欧州では4割、米国では2割とされるペットボトルの再利用率が日本では8割以上に達することなどをあわせて伝えれば、日本のAT自体の価値を大きく上げます。

また、お客様と最前線で一番触れ合う機会の多いガイドの方々に限らず、日本のAT関係者には、諸外国の人たちを前にしても、気後れせずにどんどん話すコミュニケーション力こそがさらに重要になると考えます。私は日本人の英語基礎力は極端に低いとは思いませんが実際に話してみる機会が少ないため、どうしてもコミュニケーションにためらいを感じてしまう方も多いと思います。英語力向上は重要ですが、単語でも簡素な表現でも、臆せずに積極的にコミュニケーションを取っていただきたいと思います。そうしたことがより明確になったATWS2023だったと思います。

柔軟にカスタマイズしたATTAプログラムで各地をレベルアップ

ATWS2023という一大イベントが終わり、ATTAは今後、日本における活動をどう展開していく予定ですか?

これからも引き続き、ATに関心を示してくださった地域の方々には取り組みを始めるためのサポートやマーケティング戦略、ソリューション提供等から相談を受け付けています。

すでに取り組みが進んでいる地域に向けても、さらなるレベルアップをご支援できるよう、ATTA公式人材育成プログラムのAdventureEDUや、AT関係の旅行会社やメディアを招請しての大型モニターツアーであるAdventureWEEK、そして地域大会であるAdventure ELEVATEなどをご提案したいと考えています。

もし、具体的な課題をお持ちの地域からソリューションを提案してほしいという依頼があった場合には、世界で取り組んでいるATTAプログラムの中からもっともふさわしいものをセレクトし、ご提案していきます。

ただし、実際に日本国内に導入する場合、欧米とは異なる日本文化や参加者のレベルに合わせたカスタマイズを設計段階で、地域の実情にあわせてすり合わせていくことが非常に重要になってきます。

例えば、2023年にも国内で3つのトレーニングを実施しました。そのうちの一つは一定以上AT取り組み経験のある方々が対象だったため、より実践的な応用を組み込んだプログラムへのカスタマイズが必要でした。

また、商談会の十数分間でいかに相手の心を掴むか、商談会後にいかに具体的なビジネスにつなげていくかといったスキルや、より実践的なプレゼンテーションについて学んでいただく場などをカスタマイズして組み込みました。

このように参加いただく方々の英語レベルはもちろんガイド・商談経験、経営視点の有無等を加味した適切なプログラムのカスタマイズも、私たちATTAの重要な仕事の一つであると受け止めています。コロナ禍でしばらくこうしたトレーニングが日本で実施できていなかったため、2023年は調整がより大変でしたが、素晴らしい受講者の皆様からATTAも多くを学ばせていただき、今後より効果的なプログラムをご提供していくにあたり貴重な機会を得られました。

中長期で見据えたAT人材育成を、若手の活躍にも期待 

AT発展の鍵は人材育成だとも言われています。日本の人材育成の現状をどう見ておられますか?

北海道を筆頭に、各地でも素晴らしい人材育成に取り組まれているという認識です。

北海道外の事例では、沖縄で沖縄県・OCVB・内閣府沖縄総合事務局が連携して、複数年でAT人材育成に取り組んだ結果、育成プログラムの修了生の方々同士での様々な事業立ち上げや、連携が生まれています。現在では、関連事業で講師を務めてくださったり、沖縄北部「やんばる」エリアで古民家を再生した高付加価値な宿泊施設運営で注目を集めている方などもいらっしゃり、うれしい事例も増えてきました。

ここでポイントとなったのは産官学の様々なステークホルダーが広域にわたって協働し、中長期的な視点をもって人材育成に取り組んでくださったことだと捉えています。単一・単年度で終わらせず、複数年で取り組まれ、また一見関係の無いような取り組みでも、ATという共通言語で、連携して進められていることも成果に繋がっていると思います。

「地域主語」の実践には、複数年での長期計画で、時間、費用、人材を十分に投入することが必要です。だからこそ初動の設計を、時間をかけて行う必要があります。簡単ではありませんが、そうしたことをご理解いただいた上で取り組んでいただける地域が、これから目覚ましい結果を出していくのではないかなと感じています。

それから、ATはサステナビリティに対して感度の高い、特に若い世代の方々に非常に共感してもらいやすいコンテンツだと思っています。

実際、私はこの5年間ほど大学のゼミでATの現状や可能性について講義のお手伝いをさせていただいておりますが、ATに対する学生たちの関心の高さを実感しています。

このゼミでは、従来は旅行会社や航空関連会社などへの就職が多かったのですが、ATを取り入れてから、コンサルティング会社や地域金融機関など従来は皆無であった企業へ進むゼミ生さんが増えています。きっとゼミ生の皆さんも、地域への貢献の仕方をより多様に捉えてくださった結果かと考えます。ここでもATは観光を通じて地域を良くしたいということに取り組む"きっかけ"として有効かと感じています。

日本の経済見通しが困難な状況が続く中、アニメ・マンガやゲームのような日本を代表とするコンテンツ産業はさらに重要になっていくと思います。

私は、ATは日本の総体的な素晴らしさそのものを具現化する重要なコンテンツ産業を支援する取り組みともいえると思っています。今後、日本のATがさらに成長し、そこで若い世代が、日本の価値を世界に向けて堂々と発信していき、観光にとどまらず日本を活性化していってくれると確信しています。

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© ATTA / Hassen Salum

―最後に、今後のさらなる発展に向けて日本のAT事業者の方々にメッセージをお願いいたします。

先のATWS2023を終えて、各地域の皆さんがきっと、様々な刺激や気づきを持ち帰っておられると思います。また、ATWSの会期中にATTAATWS北海道実行委員会が「これからの北海道・日本におけるATの推進に向けた道のりを、観光庁・JNTOと共に描いていく」という共同宣言を出したことも、皆さんの記憶に新しいと思います。

日本のATを次のフェーズに進めるときが来ました。「自分たちの地域でもATを」とお考えの方は、ぜひ気軽にATTAにお声がけください。一緒に盛り上げてまいりましょう。


國谷裕紀

ATTA Business manager, Asia

旅行会社入社後、シンクタンク部門でコンサルタントとして従事。2017年よりATTAと連携した取り組みを通じて日本でのAT促進に携わる、北海道他全国でAT関連事業の設計・運営に関わる。日本初のATTAアンバサダーを経て、20225月にATTA Business manager, Asiaに就任。

参考サイト

JNTO MICE誘致・開催レポート:アドベンチャートラベル・ワールドサミット 北海道・日本(ATWS2023)を開催!