五中全会で発言する習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)
五中全会で発言する習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)

 中国共産党は、党大会を5年に1度、中央委員会全体会議を1年に1度開き、重要な決定をする。その中央委員会全体会議が10月26~29日に開かれた(正式には第19期中央委員会第5回全体会議と呼ぶ。略して「5中全会」)。

 中国共産党の制度設計では、形式的には、中央委員会の権限を休会中に代行するのが政治局であり、政治局に代わり日常的に業務を執行するのが政治局常務委員会という立て付けになっている。したがって重要問題に関する党の決定は中央委員会の決議の形をとる必要がある。

 共産党は今回の会議に関するコミュニケ(公報)を10月29日に発表し、来年から始める5カ年計画(「国民経済及び社会発展第14次五カ年計画」)および「2035年までの長期目標」に関する党中央の提案が可決されたことを明らかにした。翌30日、会議に関する記者会見を開いた。本稿執筆時点で分かるのはそれだけであり、5カ年計画と長期目標の全貌はまだ明らかにしていない。

 実は2013年11月の3中全会(第18期中央委員会第3回全体会議)のとき、その直後に出されたコミュニケだけでは、中身を読み間違えるところだった。3中全会が議決した「改革の全面的深化における若干の重大問題に関する決定」は、経済改革と人民解放軍改革に関する実に重大な決定であったのに、コミュニケは触れていなかったのだ。

 このようにコミュニケや記者会見だけで今回の5中全会を判断するのは早計にすぎる。だが、それでも以下に挙げる3つのことが見えてきている。

習近平が、毛沢東のような個人独裁に移行する可能性は皆無

 第1は、習近平(シー・ジンピン)体制が落ち着いてきたことだ。

 習近平は権限において前任の国家主席である胡錦濤(フー・ジンタオ)を超え、さらにその前任である江沢民(ジアン・ズォーミン)の最盛期を超えた面も出てきた。だが、権威ないし影響力の面では、まだ江沢民に及ばないように見える。つまり、権限においては前任者らを超えられても、権威においては超えられていない状況下における、集団指導体制の中身が決まり、落ち着いてきた(詳細は後述)。

 習近平は、党内運営に関する規定、内規、慣行といったものを一度ご破算にして、再構築しようとしてきた。もちろん自分に権限を集めた方がやりやすいし、権威を高めるには個人崇拝も悪くはないし、任期も限られない方がよい。そこで国家主席の任期制を撤廃する憲法改正を2018年3月に通したが、それに対する党内外の反発は決して小さくはなかった。このとき習近平政権は不安定化した。党内の安定を図るために、もう一度、制度化を進めている。

このシリーズの他の記事を読む

 それが、「中国共産党中央委員会工作条例」に表れている。本年9月28日に政治局が決めた同条例は、習近平への権力集中や長期政権への布石を示す証拠のように言われているが、これはむしろ「習近平を核心とする」集団指導体制の中身をはっきりさせた文書である。これまで規定上曖昧であった中央委員会、政治局、政治局常務委員会などの関係を明確にし、総書記をはじめとする、それぞれの職責と権限を明らかにした。

 「二つの擁護」という方針がこの工作条例に書き込まれたことで、習近平への権力強化が進んだと言われることがある。第1の擁護は、総書記である習近平の党中央、全党における核心的地位の擁護。第2は、党中央の権威と集中統一指導の擁護、である。2018年秋ごろから言い出された。

「集中」と同等に「民主」も規定

 この「二つの擁護」は胡錦濤も望んでいたことであり、共産党のガバナンス上、必要なものである。このことをもって習近平への権力強化の根拠とするには弱すぎる。

この記事は有料会員登録で続きをご覧いただけます
残り4432文字 / 全文5965文字

【春割・2カ月無料】お申し込みで…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題