日本の食文化をストーリー化し、インバウンド誘致につなげる|地域の取り組み事例|JNTO(日本政府観光局)
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日本の食文化をストーリー化し、インバウンド誘致につなげる

日本の食文化をストーリー化し、インバウンド誘致につなげる

日本の食文化をストーリー化し、インバウンド誘致につなげる

奈良県では、「食」と「旅」が融合した新しい観光の形である「ガストロノミーツーリズム」を推進しています。地域ではぐくまれた食と、その食の背景にある地域の自然や歴史、文化等の魅力をあわせて観光につなげる奈良県の取組について、奈良県観光局MICE推進室の田中 義明さんと松本 航さん、そして奈良県 食と農の振興部 豊かな食と農の振興課の下浦 隆裕さんにお話を伺いました。

対象地域
奈良県
面積
3,691 平方キロメートル
総人口
1,308,606人 (令和4年4月1日現在)
主要観光資源
東大寺、奈良公園、吉野山等
公式サイト
https://www.pref.nara.jp/

食の背景にある歴史・文化をまるごとストーリー化する

―はじめに、奈良県がガストロノミーツーリズムの推進に取り組むことになったきっかけについて教えてください。

奈良県では15年ほど前から、「農業の振興」とともに、観光力を高める重要な要素として「食の魅力向上」を掲げ、作る側の農家や料理人と食べる側の消費者を繋げるとともに、食を通じて奈良の歴史・文化を楽しんでいただけるような取組を行ってきました。こうした取組の一環として、2022年には『第7回UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラム』の誘致活動を展開し、無事開催することができました。

「食」は、観光に欠かすことのできない要素であり、また地域の歴史・文化・自然と深く結びついているため、地域の魅力を表現する最適な観光資源の一つであるといえます。奈良の食、食材などを通じて、観光客の方々に奈良県の歴史や伝統、文化の魅力を感じてもらう「ガストロノミーツーリズム」を進めていくことによって、奈良県の地域経済の活性化にもつながっていくと考えています。

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―ガストロノミーツーリズムに対する理解を深めるために、どんな取組を行っていますか?

ガストロノミーツーリズムは「地域で育まれた食やその食の背景にある地域の自然や歴史、文化等の魅力に触れることを目的としたツーリズム」です。世界フォーラムを開催するにあたって、県民の方々にガストロノミーツーリズムの概念を端的に伝える必要があったので、私たちはまず"食べ歩きの旅"という言い方をしました。しかし、普段から旅行先を検討する際に「食事がおいしい場所を選ぶ」という人は当然多いですから、「それって自分たちが普段やっている食べ歩きと何がどう違うのだ?」ということになります。

奈良を訪れて奈良のお酒を楽しむ。これは皆さんもおなじみの「食べ歩き」です。そうではなく、例えば、室町時代に現在の清酒づくりの基礎となる技術が確立された「清酒発祥の地」と伝えられている奈良市の正暦寺や、「酒造の神」と呼ばれ、毎年11月に行われる醸造安全祈願祭には全国の蔵元が集まってくる桜井市の大神神社といったスポットを訪れて、その背景にある歴史・文化も体感したうえで日本酒を楽しむ。これが「ガストロノミーツーリズム」と考えています。

ガストロノミーツーリズムとは何かを知っていただこうと、県では『食のさんぽ道』という観光マップを制作しました。日本最古の道のひとつといわれる「山の辺の道」は従来から観光客に人気のスポットですが、ここに「食」という要素を加えることで、何度も繰り返し訪れていただきたいという思いから制作されました。このマップには、食事処やカフェ、土産物店、体験スポットなど、訪れてみたくなる47カ所の食と農のスポットを紹介しています。マップを手に「山の辺の道」を巡れば、豊かな歴史や自然に育まれた食をゆったりと楽しんでいただけます。

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『食のさんぽ道』

日本の食文化の中には、清酒だけでなく、お茶、うどん、そうめんなど、奈良県が発祥とされているものが数多くあります。また、地域ならではの伝統野菜「大和野菜」もあります。そういった個々の食材の由来や、地域の気候風土・風景・風習との関わりなどについてストーリー化することで、それらは魅力的な観光資源になると考えています。2023年度は、ガストロノミーツーリズムに興味のある方々を対象に「ストーリー化についての勉強会」を開催する計画です。こうした取組を通じて、外国人の方々に「奈良は日本の食文化発祥の地」「日本は食文化を大切にしている国」ということを感じてもらえる情報発信をしていきたいと考えています。

世界で人気の日本食を、「日本に行きたい!」につなげる

―2022年12月の「ガストロミーツーリズム世界フォーラム」の内容や、参加者からの反応について教えてください。

今回の世界フォーラムには約30か国、450名以上の方が参加されました。オンラインでの同時配信では125カ国から1,000名以上の方が視聴されました。今回、JNTOにも協力いただき、多くのメディアに取り上げていただいたことで、奈良県の食、食材、酒、歴史・文化までさまざまなコンテンツを国内外に向けて広く発信できたと思っています。

私たちは開催自治体として、主に「参加者へのおもてなし」に注力しました。レセプションでは、奈良県産の食材を使った郷土料理を海外の方々に提供して、奈良の食の魅力をお伝えしました。また、フィールドワーク(体験学習)やエクスカーション(体験型見学会)の中では、参加者の方々に『ミシュランガイド奈良』に掲載されている飲食店で食事をしていただくだけでなく、県内の酒蔵や醤油蔵を見学してお話を伺ったり、調理実習や餅つきをしたりして、奈良の食を体験していただきました。特に、吉野に行かないと味わえない『賞味期限10分の葛切り』は、参加者も興味津々でした。

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エクスカーション終了後には参加者との意見交換会を開催したのですが、参加者からは「日本文化のこれまで知らなかった側面を知ることができた」「地元の方々との交流が、いい体験だった」といった嬉しい感想をいただきました。その一方で、「(一部のお店で)クレジットカードが使えなかったのが残念」とか、「土産物店での包装パッケージが過剰なのが気になった」といった感想をいただくこともできました。こうした声を、今後のインバウンド招致に向けた取組に活かしていきたいと考えています。

「日本の食」は世界でも年々人気が高まってきていて、パリでは日本酒や日本茶の品評会も開催されるなど、関心も高まってきています。2021 年にベルギーで開催された前回の世界フォーラムでは、奈良県が昼食会を開催し、奈良の食材を使った和食を提供しましたが、各国の参加者は、調理しているところをのぞき込むなど興味津々の様子でした。海外では日本食を供する飲食店も多くなってきていますから、自国で日本食を体験し、そこで日本のファンになっていただいて、さらに知識や興味を深めるために日本を訪れてもらうという流れができるといいですね。

大阪・関西万博に向け、プロモーションを加速

―インバウンド向けのプロモーションは、どのように行っていますか?

奈良県の観光情報の発信は、今までは歴史・文化を中心に、自然・体験プログラム・食について実施してきたのですが、大阪・関西万博を見据えて、今回のガストロノミーツーリズム世界フォーラムを契機として「食を組み合わせた情報発信」を強化していきたいと考えています。奈良の強みである歴史・文化に関心の高い層は欧米豪と考えており、とりわけフランスやスペインの方々を主なターゲットにしています。また、コロナ以前に訪日客が多かった中国、台湾向けのプロモーションも引き続き行っています。

プロモーション方法としては、ここ23年はコロナ禍ということもあり、SNSでの発信を中心に行ってきました。海外在住のインフルエンサーが招聘できなかった時期には、在日の外国人を招いて、奈良の魅力を発信していただきました。今後は海外からインフルエンサーを招聘し、実際に「奈良の食と文化」を体験しSNSで発信していただくファムトリップや、海外で開催される商談会や旅行博への出展など、現地でのリアルな情報発信を強化していきたいと考えています。

2022年度の海外プロモーションとしては、ヨーロッパの旅行関係者を対象とした奈良の観光ブランド確立のため、2022年6月にフランス・パリのユネスコ本部で開催された 展示会『日本へのクリエイティブな旅展2022』に、20231月にはスペイン・マドリードで開催された『FITUR2023』のジャパンブースに出展しました。20233月には台湾の商談会にも出展しました。今後2025年の大阪・関西万博に向けて、奈良の魅力を引き続き発信しながら、大阪から1時間圏内であることもアピールし、奈良への宿泊推進をコンセプトとして万博開催前から誘客プロモーションに取り組んでいこうと考えています。

 

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―最後に、全国の自治体・DMOに向けてのメッセージをお願いします。

食は人類共通で必要なものです。そして、日本には四季折々の多様な気候・風土があり、地域の歴史や文化に根ざした郷土料理があり、お祭りや暦といった形で「自然とともに生き、自然の恵みに感謝する気持ち」を先人から受け継いできています。その意味で、ガストロノミーツーリズムの推進については、日本全国どの地域にもポテンシャルがあると考えています。大規模な整備や投資も必ずしも必要ではないため、どんな地域でも取り組みやすい施策と言えるのではないでしょうか。

また、世界フォーラム開催にあたって奈良県では「観光を担当する部局」と「食と農を担当する部局」が密に連携して進めてきましたが、ガストロノミーツーリズム推進には、部局間の連携を強める効果もあると感じています。

一方で、民間事業者と連携したガストロノミーツーリズム推進は、まだ不十分だと感じています。同じような取組を検討している自治体があれば、ぜひ連携させていただき、日本各地でガストロノミーツーリズムを推進し、インバウンド招致につなげていきたいと思っています。ぜひ一緒に、「食」と「旅」が融合した新しい観光の形をつくっていきましょう。

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