日本に温かく、中国に冷たいメッシ
2月4日、米メジャーリーグサッカーのインテル・マイアミが香港で地元の選抜チームとの親善試合を行った。その際、アルゼンチン出身の「神の子」リオネル・メッシ選手は「目玉選手」として出場を大きく期待されていた。しかし意外なことに、試合中、メッシはベンチに座ったままでピッチには立たなかった。
試合会場に集まった4万人の観客の大半はメッシ目当てにやってきただけにその落胆は大きい。その時、香港の主催者側はメッシ欠場への「救済案」として、メッシ本人が会場の観客に対してあいさつを行うことなどを提案したが、それもメッシ側に拒否されたという。
試合終了後にはさらなるハプニングが起きた。観戦した香港の李家超行政長官はグラウンドに出て、一列に並ぶインテル・マイアミの選手たちと順番に握手を交わしたが、その時、メッシはこっそりと列から離れて「握手」を意図的に回避したことが当時の映像で判明されている。そして李長官が入って全員の集合写真を撮る際、メッシはわざと最後列に並んで顔の半分しか出さなかった。
結局「神の子」メッシは、チームの一員として香港にやってきたものの、全く非協力な冷たい態度に徹していて事実上のボイコットを行ったわけである。
その一方、2月6日にチームと共に来日したメッシの態度は一変した。彼がたった一人で記者会見に臨み「日本に来ることができてうれしい。いつも温かく迎えてくれる」と語り、そして7日に東京国立競技場で行われたヴィッセル神戸との対戦では途中出場して会場を沸かせた。日本でのメッシの振る舞いは、香港でとったものと好対照となった。
「傷つけられ」激発する中国ナショナリズム
それに対し、香港と中国本土の両方からは激しい反発が巻き起こった。メッシが香港欠場の理由として「内転筋の怪我」と釈明しているが、「ならばどうしてその直後に東京で出場したのか」との疑問が発せられ、メッシはわざと「香港蔑視」「中国蔑視」をやっているのではないかとの批判が広がった。
2月7日、香港特別区政府はわざわざ声明を発表。メッシの香港戦欠場に強い疑問を呈したと同時に、インテル・マイアミにさらなる釈明を求めた。そして李行政長官は定例の会見では不快感を露わにしても主催者側に非難の矛先をむけた。立法会の何君堯議員はSNSでメッシの欠場と李行政長官との「握手回避」を取り上げて「香港への侮辱、中国への侮辱」だと非難。香港行政会議召集人の叶劉淑儀はメッシのことを「虚偽」だと批判の上、二度と香港に入れてはならないとまで放言した。
その一方、中国国内では、「香港に冷たくて日本に温かい」というメッシの姿勢を「侮華=中華侮辱」の表れだと捉え、「メッシ批判」の嵐が吹き荒れた。こうした中で人民日報系列の環球時報は2月8日、社説までを掲載してメッシの行動を激しく批判する一方、その背後に「政治的動機があるのではないか」と詮索した。そして、3月に予定されていたアルゼンチン代表の杭州でのナイジェリア戦、北京でのコートジボワール戦の2試合が中国側によってキャンセルされた。
メッシというスポーツ選手のとった一連の行動は香港と中国の両方で大きな反発を起こして一大政治事件に発展する勢いとなっているが、その背後にあるのはまず、「傷つきやすい」ことを特徴とする現代中国人の過剰な「ナショナリズム感情」と、コンプレックスの裏返しとしての過剰な「民族自尊心」ではないのか。そしてメッシが日本で取った友好的態度はまた、こうした過剰感情に火に油を注ぐ効果を発揮した。
香港てこ入れ政策、出鼻で挫折
その一方、香港政府がメッシの一件で過敏な反応をとったことの背後にはもう一つの要因がある。実は香港政府は外資と外国人の香港離れと香港経済の衰退を食い止めるために、「盛事経済=盛大なるイベント経済」というキャッチフレーズの下で、今年からは国際的スポーツ試合や文化的イベントを盛んに開催するプランを立てている。今年上半期だけでも80以上の「盛事」が開催される予定である。
実は、メッシが入っているインテル・マイアミを香港試合に呼んだのはまさにこの「盛事経済」計画の第一弾であって、要するに香港政府の「メッシ利用」であるが、結果的には、メッシが行った事実上のボイコットによって、香港政府はメンツ丸潰れとなっただけでなく、香港の「盛事経済」は出足から挫折を経験した。実際、前述の環球時報社説もやはり、メッシの行動を「外部勢力による盛事経済潰し」の一環ではなかと推測している。
「神の子」メッシは一体どうして、香港に対してボイコット的な行動と態度をとったのかは不明だが、客観的に見れば彼は習近平独裁下の中国と香港による「政治利用」に背を向けた。われわれからすれば、それこそは大いに称賛すべき立派な行動ではないのか。