リアリティ番組
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概要
90年代末の世界各地での大ヒット以降、従来型の視聴参加型のクイズ番組やバラエティ番組もリアリティ番組を名乗るようになったため、現在は非常に意味が拡散した言葉となっている。視聴者参加型のクイズ番組・トーク番組・恋愛バラエティ番組をはじめ、視聴者から選ばれた代表を孤島や旅先に隔離してカメラで監視したり、毎週課題を与え最後の一人になるまで勝ち抜きさせたりするものまで、さまざまな種類のものがある。これらの番組の多くは、固定カメラや隠しカメラ、手持ちカメラなどといったドキュメンタリー番組の撮影手法を用いて出演者に密着し、独特の臨場感を視聴者に与え、撮影対象となる出演者のドラマを「本物らしく」見せる事を売りとしている。
番組の焦点は、参加している一般人同士のメロドラマ的人間関係や恋愛・苦闘であり、視聴者はこれを楽しむだけでなく電話投票などで彼らに対し審判を下すこともある。
起源
その起源は、1948年のアレン・フントによる『キャンディード・カメラ』(en:Candid Camera、『どっきりカメラ』の元祖[1])など、一般人の即興的で意外な反応を楽しむテレビ番組にまでさかのぼる。こうした、練られた脚本や俳優の演技よりも面白い一般人のリアクションに焦点を当てた番組は、1960年代から1980年代にかけてヨーロッパ、日本、アメリカなど世界各地で製作されていた。今日的な愛憎や恋愛を題材にしたリアリティ番組は、PBSで1973年に放送された、離婚寸前の核家族に密着した『アメリカン・ファミリー』(An American Family)が最初とされる[1][2]。この番組は、理想的な家庭が離婚へと向かう緊張感、ゲイであることを告白する長男、アメリカ人の家族に対する価値観が変わりゆくさまをとらえて大きな反響を呼び起こした。
一般のテレビドキュメンタリーやトーク番組にもリアリティ番組的な要素が入るようになった。1960年代から1970年代にかけて、チャック・バリス(Chuck Barris)のプロデュースによる『デート・ゲーム』(The Dating Game)、『新婚ゲーム』(The Newlywed Game)、『ザ・ゴングショー』など、ゲームで勝ち抜くために自分のプライバシーや尊厳も犠牲にする視聴者が登場する視聴者参加ゲーム番組が全米で人気を博した。1989年放送開始の警官密着型番組『コップス(COPS)』は、警官の日常や、逮捕され抵抗する犯人といったシーンが人気を集めたが、これらは一般人である警官や犯人のインパクトの強さも話題となった。またカムコーダやシネマ・ヴェリテ(Cinéma vérité)的な手法を使って、警官たちの日常シーンや逮捕シーンなどの臨場感を高めていた。1991年放送開始のトーク番組、『ジェリー・スプリンガー・ショー』(The Jerry Springer Show)はレッドネックなど貧困家庭の出演者が司会者ジェリー・スプリンガーや視聴者の前で家族の恥部をさらしケンカを始める様が評判を呼び、視聴者に他人の人生を覗き見る衝撃や快感を与えた。
リアリティ番組のフォーマット
完全に一般人に焦点をあわせたリアリティ番組は1990年代に世界各地で放送開始された。アメリカでは、1992年にMTVで、視聴者から募った数人の若者が一軒家で共同生活するさまを隠しカメラで数ヶ月にわたり追った『リアル・ワールド』が放送開始された。オーディションで選ばれた視聴者、限られた場所・限られた期間での生活、時々挿入される参加者へのインタビュー(この生活に対する感想、人間関係や他の参加者に対する感想など)、といったフォーマットは後の世界中のリアリティ番組の基礎となり、1990年代末から2000年代にかけてリアリティ番組が山のように生み出されるきっかけとなった。
こうした番組の中にはイギリスやオランダなどヨーロッパで最初に放送され、その後フォーマットがアメリカを経由して世界に販売されたものも多い。
リアリティ番組の類型
さまざまなリアリティ番組をいくつかの類型にまとめる提案や試みには、以下のようなものがある。
- 2006年の研究における6類型:ロマンス、犯罪、情報、リアリティ=ドラマ、競争ゲーム、才能[3]
- 2007年の研究における5類型:情報娯楽番組(infotainment)、ドキュメントメロドラマ(docusoap)、ライフスタイル番組、ゲーム番組, ライフスタイル実験番組[4]
- 2009年の研究における8類型:ゲームドキュメンタリー("gamedocs")、デート番組、メイクオーバー番組、ドキュメントメロドラマ、才能コンテスト、法廷番組、リアリティ・シットコム、これらの類型に有名芸能人を出すもの[5]
その他、リアリティ番組を2つのタイプに分ける分類もある。ひとつは一般人などの日常生活に密着し、何の飾りもない本物の生活を記録した(と称する)もの、そして参加者をゲームやコンテストや生活改善など、普段の生活と違う全く新しい環境におくものである。2003年の論文で、エリザベス・クラウスとステファニー・リュッケは前者を「ドキュソープ」(ドキュメントメロドラマ、"docusoaps")と呼び、物語的現実("narrative reality")から構成されるとする。後者は「リアリティ・ソープ」("reality soaps")と呼び、遂行的現実("performative reality")から構成されるとする[6]。2014年以来、プライムタイム・エミー賞はリアリティ番組に対してこれと同様の分類を行っている。前者は「構成のないリアリティ番組(Unstructured Reality Program, 入念に構成された一貫したテンプレートやルールなどが存在せず、登場人物の行動により突き動かされるストーリー要素を含むもの[7])」部門、後者は「構成のあるリアリティ番組(Structured Reality Program, 繰り返し使われ構築される番組テンプレートやルールに従うことによって生じるストーリー要素を含むもの[7])」部門であり、そのほかに「リアリティ・コンペティション」部門(Reality-Competition Program, リアリティ番組の中でも「視聴者対抗勝ち抜きゲーム」の要素が強いもの、後に単にコンペティション部門へと改名)を置く。
構成されたリアリティ
変身・メイクオーバー・リノベーション
1996年、イギリスで放送された『チェンジング・ルーム』(Changing Rooms)はカップルが互いの部屋を改造するもので、視聴者の容姿をおしゃれに変身(メイクオーバー)させるリアリティ番組や、部屋や建物のリノベーションを行うリアリティ番組のさきがけとなった。2003年から放送された『クィア・アイ』は、それぞれの得意分野を持つ5人のゲイ男性が視聴者の外見だけでなく内面に至るまで改造してゆく人気番組であった。
国内ではリアリティ番組と銘打たれていないものの『B.C.ビューティー・コロシアム』や『大改造!!劇的ビフォーアフター』などがある。
ある研究では、リアリティ番組をより多く見ると答えた実験参加者は、あまり見ないと答えた参加者に比べ、整形手術を受けたいと答える割合が高かったという[8]。
特殊な環境への隔離
1997年、スウェーデンで放送された『エクスペディション・ロビンソン(ロビンソン遠征隊)』(Expedition Robinson)は視聴者から選ばれたメンバーが孤島でサバイバルするという内容で、『リアル・ワールド』が完成させたリアリティ番組のフォーマットに「生き残り」(毎回一人ずつ脱落し、最後に一人が勝ち残る)という要素を追加して人気番組となった。また、後に世界各地にこのフォーマットが販売され『サバイバー』として放送された。
1999年、オランダで放送された『ビッグ・ブラザー』は完全に外部から隔離され、すべての場所にカメラとマイクが仕掛けられた家に十数人の男女を3ヶ月入れるというもので、彼らの生活はケンカやセックス、互いの脱落させ合いに至るまですべてが収録される極端なものである。これも世界中にフォーマットが販売され、オランダの制作会社エンデモルはこのヒットをきっかけに世界各国でリアリティ番組を制作する大手企業となった。
スター育成
2001年にはイギリスで『ポップアイドル』という視聴者勝ち抜き型歌手育成番組が作られた。これは予選を勝ち抜いた参加者に徹底的なトレーニングを施し、視聴者の判断で一人ずつ脱落させつつ最後には一人のスターを生み出すというもので、世界各地にフォーマット販売されたり(アイドルシリーズ)参考にした番組が製作されたりした。たとえばアメリカの『アメリカン・アイドル』、中国の『超級女声』などは国民的関心を集める怪物番組となっている。101人のアイドル練習生をプロデューサー(視聴者)が投票で選抜して最終的にボーイズグループやガールズグループを生み出すという韓国の『PRODUCE 101』も社会的にブームを巻き起こし、日本や中国にフォーマットが輸出された。
この派生系として、スーパーモデル育成番組、ファッションデザイナー育成番組、スポーツ選手育成番組、コメディアン育成番組、子役スター育成番組、シェフ育成番組、ドナルド・トランプ指導による経営者育成番組『アプレンティス』なども誕生している。
投資
2001年に日本テレビで放送開始された『¥マネーの虎』は、視聴者が自分の起業アイデアを大物起業家に紹介して投資をもらったり罵倒されたりする形式の番組で、後に『ドラゴンズ・デン』や『シャーク・タンク』などのタイトルで世界50か国以上にフォーマット販売され、投資系のリアリティ番組としては世界最多となっている[9][10]。シェフがレストランのアイデアを紹介して料理をふるまい、投資家たちが判断を下す『レストラン・スタートアップ』や、芸術家が自分の作品を紹介し、審査員が承認したものは有名会場で個展を開くという『ショウ・ミー・ザ・モネ』など、視聴者へ夢をかなえる機会を提供するというリアリティ番組も登場した。
うまくいっていない個人経営の店などが、ビジネスのプロの指導を受けて経営を改善させようという番組の例には、『ウィー・ミーン・ビジネス』や『ザ・プロフィット』などがある。分野を絞った『レストラン・メイクオーバー』や『悪夢のキッチン』(Ramsay's Kitchen Nightmares)、『バー・レスキュー』、『ホテル・ヘル』などの例もある。日本では同様の番組に、1998年に放送開始された『愛の貧乏脱出大作戦』がある。
「構成のない」ドキュメンタリー
リアリティ番組には、まるで自分が、日々の生活を送る男女らや職業人に密着し、受動的な観察者として追っているかのような感覚に陥らせる撮影方法や編集方法をとるものがある。こうした撮影は、壁の上のハエの視点などと呼ばれることがある。番組中の「あらすじ(プロット)」は全く意図的な構成のないものではなく、登場人物の置かれる状況があらかじめ計画されていたり、編集によって物語が作られることがあり、その結果、ソープオペラ(メロドラマ)に番組が似ることになる。それゆえ、「ドキュドラマ」や「ドキュソープ」とも呼ばれる。視聴者は登場人物の本物のプライベートを覗き見るような感覚を与えられる。
ソープオペラスタイル/恋愛リアリティ番組
意図的にメロドラマに構成や外見が似るようなリアリティ番組が多数存在し、海外では「ドキュソープ」と呼ばれる。これらは関係の緊密な人々(視聴者から公募することもあれば、最初から特定の集団が紹介されることもある)の間の友情やロマンチックな関係の移ろいに焦点を当てる。このジャンルで特に影響力の大きな番組には、2004年から2006年までMTVで放送された『ラグナ・ビーチ』がある。副題に『ほんとうのオレンジ・カウンティ』とつけられたこの番組は、カリフォルニア州オレンジカウンティの若者の華やかな生活を描いた2003年開始のティーンドラマ『The O.C.』を模倣・再現しようとしたものである。『ラグナ・ビーチ』は複数台のカメラを駆使した高品質な撮影や照明、登場人物本人が画面の中で話すのではなく画面の外側で語るボイスオーバー・ナレーションの採用などで、従来のリアリティ番組よりも映画的な雰囲気を実現した[11]。『ラグナ・ビーチ』は、スピンオフの『The Hills』を生み出すほか、世界各国で同様の番組が多数制作され、恋愛リアリティ番組の隆盛をもたらした。
また、2006年に始まった『リアル・ハウスワイヴス・オブ・オレンジ・カウンティ』に始まった「リアル・ハウスワイヴス」シリーズは、一般人であるリッチな主婦たちのメロドラマ的な人間関係や華やかな生活を描いて人気を博したが、これも2004年に放送開始された人気テレビドラマ『デスパレートな妻たち』のリアリティ番組版ともいえる。
映像が映画のようによくできていることから、これらの番組には事前に「指導」や「筋書き」があることをしばしば指摘・非難される。イギリスのリアリティ番組『気まぐれONLY WAY』(ジ・オンリー・ウェイ・イズ・エセックス)のプロデューサーは、参加者に対して場面場面でより感情を引き出すような方法を指導していることを認めているが、番組の展開自体はリアルだと主張している[12]。
特殊な職業
警察・消防・救急など緊急性の高い職に密着した番組は低予算で非日常的な映像を撮ることが出来るため、『全米警察24時 コップス』[13]のようなドキュメンタリーに近いものから、ゲスト出演者に数日間現場を体験させその様子を撮影するなど、様々なパターンが製作された。日本でも『警察24時』が人気となっている。
実際の弁護士事務所を舞台に法律相談や法廷での対決を撮影するもの、若い弁護士が実際の事件を使って優劣を競う勝ち抜き形式(『The Law Firm』)などの法廷リアリティ番組も製作されている。
僻地の運送業者(アイスロード・トラッカーズ)、漁師(『ベーリング海の一攫千金』)など、人目に触れない仕事に従事する者に密着する番組も、人間関係や競争要素をクローズアップするなどリアリティ要素を取り入れている。
下位文化
主流の文化に対する下位文化(サブカルチャー、少数派の文化)をもつ人々に密着し、主流文化に属する人々を啓蒙したり好奇心を満たしたりするようなドキュメンタリースタイルのリアリティ番組もある。
たとえば障害者や難病患者に密着したものとしては[14]、車いす生活の若い女性たちに密着した『プッシュガールズ』や家族のほとんどが小人症という一家に密着した『リトルピープル、ビッグワールド』、身体障害や発達障害や学習障害の人々の参加するデート番組『アンデータブルズ』などがある。ダウン症の若い男女7人の仕事や恋愛に密着した『Born This Way』は2015年に放送されると翌年のプライムタイム・エミー賞の「構成のないリアリティ」部門で受賞した。
民族的・宗教的少数派に密着した番組には、レバノン系アメリカ人のムスリム家庭に密着した『オールアメリカン・ムスリム』、モルモン教徒の一夫多妻制家庭に密着した『シスター・ワイヴス』、アーミッシュに密着した『ブレイキング・アーミッシュ』などがある。
また、社会の格差に焦点を当てるリアリティ番組もある。リッチな主婦に密着した『リアル・ハウスワイヴス』のシリーズには、逆に苦しい生活を送る主婦に密着したシリーズもある。若い芸能人を裕福な家庭に一時的に送り込み、無駄に豪華な成人式を体験させる『マイ・スーパー・スウィート・シックスティーン』や、逆に合衆国南部の農村部に送り込む『ダック・ダイナスティ』などが一例である。
有名人の生活
リアリティ番組は出演料の安い、または不要な一般人が多数出演するものだったが、有名人の生の生活を覗き見る番組も登場した。たとえば2002年にMTVで放送開始された『オズボーンズ』は、オジー・オズボーンとその一家の生活を見せるものだった。2003年のFOXテレビによる『シンプルライフ』では、ハリウッドきってのパーティー好きセレブのパリス・ヒルトンとニコール・リッチーがゴージャスな生活とは無縁な農村や荒野へ旅して質素な生活を体験するもので、その奇天烈な反応が人気となった。『シンプル・ライフ』にも出演したモデルのキム・カーダシアンをはじめとするセレブ一家のカーダシアン家に密着した『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』(2007年)は2021年現在まで新シリーズが製作され続ける人気番組になった。
日本ではテレビ東京において放送された、俳優・山田孝之の日常を「ドキュメンタリードラマ」という手法で追いかけた『山田孝之の東京都北区赤羽』や『山田孝之のカンヌ映画祭』があげられる。
その他
その他、欧米におけるリアリティ番組のバリエーションは、
- 恋愛・結婚・就職など視聴者の人生をかけてデートやスポーツや面接などに挑む勝ちぬきゲーム番組
- 視聴者や芸能人が本格的なスポーツやダンスなどに挑戦するゲーム番組
- 視聴者が相談を持ち込むトーク番組
- 視聴者が夫婦や身分をしばらくの間交換する社会実験番組
- 視聴者や芸能人に超常現象や心霊スポットを捜索させる超常現象番組
- 事件や事故に遭遇した被害者や家族本人が出演して事件を再現する実話再現番組
- 「億万長者とデートし一人だけが結婚できる」という名目で出演者を集めるが、億万長者として登場する人物の正体は貧乏人であったりするなど、番組の真の目的を知らない出演者の悪戦苦闘を司会者や視聴者が笑って楽しむ偽リアリティ番組
などの広がりを見せている。
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