積んだだけでは「850年ももたない」…高さ91メートルもの大聖堂を支えた「鉄製のかすがい」。その「衝撃的な技術レベル」(志村 史夫) | ブルーバックス | 講談社(1/3)

積んだだけでは「850年ももたない」…高さ91メートルもの大聖堂を支えた「鉄製のかすがい」。その「衝撃的な技術レベル」

今から5年前の今日、2019年4月15日に、衝撃のニュースが駆け巡りました。

フランスを代表する歴史的建造物であり、観光名所でもある世界遺産、ノートルダム大聖堂が大規模な火災に見舞われたのです。聖堂のシンボルだった尖塔が崩れ落ちた痛ましいその姿に、パリ市民はもちろん、世界中の人々が悲嘆に暮れました。

その修復計画を進めるなかで、じつは、建築史に残る驚きの事実が発見されていたことをご存じでしょうか。石だけで造られていると考えられてきた大聖堂に、なんと「鉄」製の部材が使われていたのです。

いったいなぜ、何のために鉄が使用されたのか?

「現代科学で読み解く技術史ミステリー」シリーズ、『古代日本の超技術〈新装改訂版〉』と『古代世界の超技術〈改訂新版〉』が話題の志村史夫さん(ノースカロライナ州立大学終身教授)が、前回に引き続き、建造開始から850年以上、大聖堂を支えてきた技術を検証していきます。

“木組みの塊”

私は、拙著古代世界の超技術〈改訂新版〉の執筆時、石造建築物についてはかなり調べたのであるが、鎹(かすがい)が使われた例はまったく見出せなかった。

同書の姉妹編である古代日本の超技術〈新装改訂版〉で縷々(るる)述べたように、日本の五重塔に代表される古代木造建築物は“木組みの塊”ともよぶべきものであり、要所要所には「たたら鐵(てつ)」で作られた釘や鎹が使われている。

一般に、写真8に示すような五重塔内部の木組みを見ることは難しいのであるが、私が名実ともに日本一の名橋と思う錦帯橋(岩国)へ行けば、まことに美しい木組み(写真9)と鎹(写真10)を見ることができる。

【写真】青森青龍寺の五重塔内部の木組み、錦帯橋、錦帯橋の美しい木組みと鎹写真8(上)青森・青龍寺の五重塔内部の木組み(筆者撮影) 写真9(下左)錦帯橋(岩国市提供)、写真10(下右)錦帯橋の美しい木組みと鎹(海老崎粂治錦帯橋棟梁提供 ※崎:正しくはつくりの上が「立」)

「木造」建築の技術を使っていた!

写真11は、2001年から2004年にかけて行われた、50年ぶりとなる錦帯橋の「平成の架け替え」のときに使われた、白鷹幸伯鍛冶によって鍛造された鎹と釘である。

【写真】錦帯橋に使われた鎹と釘写真11 錦帯橋に使われた鎹と釘

白鷹鍛冶は、法隆寺金堂の修復や薬師寺金堂・西塔の再建などで名高い西岡常一棟梁の依頼によって、薬師寺西塔再建の際に7000本、回廊再建の際に6000本などの和釘を鍛造した鍛冶として知られる。

木造建築ならぬ歴史的石造建築で「建材の合わせ目をつなぎとめるために打ち込む両端の曲がった大釘」である鎹が「石材の合わせ目をつなぎとめる」ために使われるとは、私を含めて誰も思わなかったのではないだろうか。

そして、その実物を見た人もいなかったのではないだろうか。

クスコの石組み

石組みといえば、クスコの街に残る“カミソリの刃すら通らない”精巧な石組みがよく知られている。

スペイン人は侵略後、インカの建造物を破壊し、インカの石組みの上に彼らの教会などを建てているが、スペイン人とインカ人の石組み技術の差は、写真12に示すように歴然としている。

【写真】クスコに残る石組み写真12 クスコに残る石組み(筆者撮影、『古代世界の超技術〈改訂新版〉』より)

スペイン人による増築の際には、石と石とをモルタルを使って接合したが、いまはそのモルタルがはげ落ち、隙間が空いてしまっている(図中の矢印)。

インカ人はモルタルなど使うことなく、接合面を互いに吸いつくような平滑面に仕上げる精巧な表面加工によって石と石を密着させたのである。

私が「古代世界の超技術」で驚いたのは、ストーンヘンジのサーセン石サークルの直立石と楣(まぐさ)石との接合に見られる“超技術”だった(古代世界の超技術〈改訂新版〉第2章参照)。

サーセン石サークルに使われた“超技術”とは、いったいどのようなものだったのか?

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