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ゲージ理論 ゲージ場

ゲージ理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/09 14:19 UTC 版)

ゲージ場

大域対称性と局所対称性

任意の物理的状況の数学的記述は、通常、過度の自由度を持っている。同一の物理状況は、多くの同値な数学的な構成によりうまく記述される。例えば、ニュートン力学では、2つの構成が互いにガリレイ変換(座標系の慣性変換)により、同一の物理的状況を表している。これらの変換は理論の対称性を形成し、物理的状況は個別の数学的構成に対応しているのではなく、この対称群により互いに関連付けられた構成のクラスに対応する。

この考え方を大域的な対称性と同様に局所対称性へ一般化することができる。このことは、全物理系をカバーする「慣性」座標系を選ぶことのないような状況でのより抽象的な「座標変換」であることと似ている。ゲージ理論はこの種類の対称性を持つ数学的モデルであり、モデルの対称性と整合性を持つ物理的な予言をなすことを可能とする一連のテクニックを伴っている。

ファイバーバンドルを使った局所対称性の記述

ゲージ理論は、ファイバーバンドルで記述することができる。[注 1]

さらに複雑な理論の中で物理的状況を充分に記述するため、時空の中で点にラベル付けを与える座標との単純な関係を持たない対象に対して、「座標基底」を導入する必要がある。(数学用語では、点での対象の値を記述するときに使う座標基底からなるベース空間と、その各々の点でファイバーを考えたファイバーバンドルを意味する。)数学的な構成とするためには、各々の点で(ファイバーバンドルの局所切断に限った座標基底を選択し、理論の対象の値を座標を使い表現せねばならない(通常は、物理的意味では場の理論)。ファイバーバンドルと場の理論という 2つの構成は、それらの座標変換(局所切断の変換、ゲージ変換)によって関係し合うとき、等価である(同じ物理状態を記述する)と言う。

大半のゲージ理論では、時空の点の抽象的ゲージ基底の可能な変換は、有限次元のリー群である。最も単純なそのような群は、U(1)であり、現代の定式化では、複素数を使った量子電磁力学 (QED)である。QED は一般に、最初の最も単純な物理的ゲージ理論と考えられている。ゲージ理論が与えられたとき、全体の構成の中で取りうるゲージ変換の集合は、ゲージ群を形成する。ゲージ群の元は時空の点から(有限次元の)リー群への滑らかな函数によりパラメトライズされ、各々の点での函数とその微分の値は、各々の点上のファイバーでのゲージ変換の作用を表す。

時空の各点で定数であるゲージ変換は、幾何学的な座標系のリジッドな回転に似ている。この定数ゲージ変換は、ゲージ表現の大域対称性を表す。リジッドな回転の場合のように、このゲージ変換は、真に局所的な量を表現する方法と同じ方法で、ゲージ独立な量を経路に沿って変更する比率を表現することへ影響する。パラメータが定数函数でないゲージ変換は、局所対称性と呼ばれる。微分を意味する効果と、しない効果とは量的な差異がある。(このことは、コリオリの力として表すことのできる、座標の非惰性的な変換の類似物である。

ゲージ場

ゲージ理論の「ゲージ共変」バージョンは、ゲージ場を導入すること(数学のことばでは、エーレスマン接続)と、この接続の観点から共変微分の項で全ての変換の度合いを定式化することにより、この効果を考慮している。ゲージ場は、数学的構成の記述の本質的な部分となっている。ゲージ変換によりゲージ場を除去可能な構成は、場の強さ英語版(数学のことばでは、曲率)がどこでも 0 となる性質を持っている。ゲージ場はこれらの構成に限られているわけではない。言い換えると、ゲージ理論の際立った特性は、ゲージ場が単に単純な座標系の選択を償っているだけではないという特性であり、一般にはゲージ場を 0 とするようなゲージ変換は存在しない。

ゲージ理論の力学の解析のとき、物理的状況の記述での他の対象と同様に、ゲージ場は力学変数として扱わねばならない。共変微分を通して他の対象との基本相互作用に加えて、典型的にゲージ場は「自己エネルギー」項の形でエネルギーへ寄与する。ゲージ理論の方程式は次のようにして得ることができる。

  • ゲージ場がないというナイーブな仮設 (ansatzより出発する(そこでは、微分が「裸の形」で現れる)。
  • 連続パラメータにより特徴付けられる理論の大域対称性をリストアップする(一般には、回転角と同値である)。
  • 場所により変換することができる対称性パラメータから来る結果の補正項を計算する。
  • これらの補正項をひとつあるいはそれ以上のゲージ場の結合と解釈し、これらの場の適切な自己エネルギー項と力学的な振る舞いを与える。

このことは、ゲージ理論が大域的対称性を局所対称性へと「拡張」することを意味し、一般相対論として知られている重力のゲージ理論の歴史的な発展と密接に関連する。

物理実験

ゲージ理論は、本質的には次のようにして、物理実験の結果をモデル化することに使われる。

  • 自然界の可能な構成を、実験で設定する情報と整合性を持つ構成へ制限する。
  • 実験で設計された可能な出力の確率分布を計算することは、測ることを設計することである。

「設定情報」と「確率測度の出力」とを数学的に記述すること(大まかには、実験の「境界条件」)は、一般には、ゲージの選択を意味する特殊な座標系を使うことなしに表すことはできない(そうでなければ、ゲージ独立な状態を意味する「外側」の影響から充分に孤立した実験を前提とする)。境界条件でゲージ独立性を誤ると、ゲージ理論の計算でアノマリがしばしば発生するので、ゲージ理論はアノマリを回避するアプローチにより広く分類することができる。[要説明]

連続体の理論

上記の 2つの理論(連続電磁気学と一般相対論)は、連続体の理論の例である。連続体の理論の計算テクニックを暗に前提としている。

  • 完全にゲージの選択を固定すると、個別の構成の境界条件は、原理的には完全に記述することが可能である。
  • 完全にゲージを固定し一連の境界条件が与えられると、最小作用の原理は、これらの境界と整合性を持つ一意な数学的構成(従って一意な物理的状況)を決定する。
  • 測定結果の可能性は次のように決定することができる。
    • 全ての物理的状況の確率分布の確立は、設定情報と整合性を持つ境界条件により決定される。
    • 可能な物理状況の各々の出力測定の確率分布の確立。
    • 設定情報と整合性を持つ出力確率の分布を得るためのこれら 2つの確率分布の畳み込み。
  • ゲージ固定すると、境界条件の部分的情報の記述のゲージ依存性か、もしくは、理論の不完全性のどちらかのためのアノマリを計算から排除することができる。

これらの前提は充分に閉じられた形を持っているので、エネルギースケールや実験条件の広い範囲を渡って有効であり、光や熱、電気から日食、宇宙旅行と言ったことまでの日常生活の中で出くわす現象の大半について、理論は正確に予言することが可能である。数学的テクニック自体が破れるときである(理論自身の中の省略により)最も小さいスケールと最も大きなスケールのときのみ、理論がうまくいかない(最も有名な場合は、乱流とほかのカオス的な現象)。

場の量子論

これらの「古典的」連続体理論以外に、もっとも広く知られている理論が、量子電磁気学や素粒子物理学の標準模型を含む場の量子論である。場の量子論の出発点は、連続に類似する議論に非常に良く似ている。ゲージ共変な作用積分は、最小作用の原理に従い「可能な」物理的状況を特徴付ける。しかし、連続体の理論と場の量子論は、ゲージ変換により表される大きすぎる自由度をどのように扱うかということにおいて、重要な違いがある。 連続体の理論と教育的に扱われた最も単純な場の量子論は、ゲージ固定英語版(gauge fixing)の処方を使い、与えられた物理的状況を表わす数学的構成の軌道を、より小さな群の表す小さな軌道へ還元する。この小さな群は、大域対称群であったり、自明な群であったりする。

より複雑な場の量子論は、特に非アーベル的なゲージ群を持つ場合は、摂動論の枠内で、場(ファデエフ・ポポフゴースト場と、BRST量子化英語版(BRST quantization)として知られているアプローチで、アノマリキャンセル英語版(anomaly cancellation)に動機を持つ反対項を導入し、ゲージ対称性を破る。これらの問題はある意味非常にテクニカルなことであるが、問題は、観測の性質、物理的状況を知ることの限界、や不完全な特別の実験条件と不完全にしか理解されていない物理理論の間の相互作用といったことと密接に関係している[要出典]。ゲージ理論を扱い易くするために開発された数学的テクニックは、固体物理学結晶学から低次元トポロジーまで、多くの応用を持っている。


注釈

  1. ^ ヤンとミルズが強い力のゲージ理論を見つけたころ、数学でもほぼ同時にファイバーバンドルの理論が整備された。これはゲージ場の理論と数学的に等価であることが徐々に認識され、その後の数学と物理の交流の元となった。

出典

  1. ^ Wolfgang Pauli (1941) "Relativistic Field Theories of Elementary Particles," Rev. Mod. Phys. 13: 203–32.
  2. ^ Yang and Mills (1954)
  3. ^ Pickering, A. (1984). Constructing Quarks. University of Chicago Press. ISBN 0226667995 
  4. ^ Sakurai, Advanced Quantum Mechanics, sect 1–4
  5. ^ Kaku, Michio (1993). Quantum Field Theory: A Modern Introduction. New York: Oxford University Press. ISBN 0-19-507652-4 
  6. ^ Misner, Charles W.; Thorne, Kip S.; Wheeler, John Archibald (1973-09-15). Gravitation. San Francisco: W. H. Freeman. ISBN 978-0-7167-0344-0 






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