[20240516]「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」#1|spooky boogie

[20240516]「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」#1

spooky boogie
·

※【ネタバレあり】

ほんとうは柳田國男全集の話を書いていきたいと思ってここを間借りしたのだけれど、少し前から観たり読んだりしているアガサ・クリスティの「ポワロ」シリーズがほったらかし(書き散らし)になっているので、「ポワロ」に少しフォーカスしてもいいかなと思っている。

ここで言う「ポワロ」とはアガサ・クリスティの原作もそうだし、TVドラマ、映画を含んだものになる。お互い同士を観たり読んだりして比べ合ったりする、かもしれない。

もとよりミステリ(に限らず)評論家ではなく、夫夫の作品については大したことは言えないし、そんなつもりもない。日々の暮らしの中でのポアロ、という北欧チックな感じて書いておこうと思う。


その初っ端が、短編の「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」("The Jewel Robbery at the Grand Metropolitan"、『ポアロ登場』所収)のTVドラマってのはどうよ、と思われる向きもあろうが、原作を読んでTV版を観ると(逆でもいい)、良い意味での〈落差〉が感じられる。ほほー、TV版ではこんなふうにアレンジしているのね、という。

グランド・メトロポリタン・ホテルに到着したポワロたち。そこにやってきた演劇プロデューサー、エド・オパルセンが、ポワロを彼の妻マーガレットが主演する舞台「豚に真珠」に招く。彼女は舞台上で豪華な真珠のネックレスを身につけることになっていた。オパルセン夫妻が部屋に戻り、鍵をかけておいた宝石箱を開けると、その真珠がなくなっていた。アメリカ公演を控えているエドは、真珠の調査をポワロに依頼する。(Amazon Prime Videoより)

原作はポアロたちの旅行先のホテルでの宝石盗難事件を扱った、しかも舞台はホテル内部で完結するというシンプルな短編なのだが、TV版では「豚に真珠」(英語では"PEARLS BEFORE SWINE")という演劇舞台が用意され、宝石所有者のオパルセンはヘイスティングスの友人の株式仲買人から演劇プロデューサーに変更されて、そのまわりには演劇人たちもドラマオリジナルとして設定され、スケールをきらびやかに拡大させた事件へとアレンジされている。

その他にもドラマ用の設定はいくつかあって、50分の尺はなかなか見飽きない。わたしが〈落差〉といったのはこういう意味である。

ちなみに「豚に真珠」という言葉は、本編を観た方ならニヤリとするに違いない。その由来は新約聖書マタイ伝第7章第6節にあるイエスの言葉である。

聖なるものを犬に与えるな。また汝らの真珠を豚の前に投げ与えるな。彼らはそれを足で踏みつけ、ふり向いて汝らを引き裂くことになろう。(p.65、 田川建三訳著『新約聖書 訳と註 第一巻 マルコ福音書/マタイ福音書』作品社、2008年)

脚本担当のアンソニー・ホロヴィッツは原作の本質をよく理解している。

@dexter
呉田ザクレロ / iPhoneフォトグラファ。「名探偵ポワロ」を観ています。さいきん、「古畑任三郎」も観はじめました。ポワロの速度がだいぶゆっくり目になります。 たまに三島由紀夫。彼にはにはほぼ興味はないものの。あと、ソリティアとブロンプトンはそこそこ好き。