【遙かなる視線blog】 2024年05月12日

南杏子『アルツ村』講談社2022 /b1576

アルツ村
アルツ村


 ……あ、そうだ。
 そういえば、ちらりと一度だけ聞いたことがあったよ・
 暑苦しい東京を出て、自然の豊かな、涼しいとこに移ることを考えているとか。
 そんなふうに、介護が必要な高齢者を受け入れてくれる村があるんだとか。
 介護の心配をせずに、のんびりと暮らせる。年寄りだけでも、安心して暮らせる。希望がかなって移れればいいなって。
 間違いない。あの子、そんなことを口にしてた。
 なのにさ。あの事件だよ。分かんないもんだね……。
 それが、そうか。北海道だったのかい?(p76)


★★★★

 北海道の山間部にひっそりと営まれる「シルバーアーツ福祉村」、通称「アルツ村」は、製薬会社が後援するために入村者からは年金しか受け取らないという意味で「安く済ませられる」理想の介護村である。そこへ迷い込んだ主人公は、やがて「アルツ村」の後ろ暗い部分に気づいて……という筋書きであり、いわゆる認知症問題、介護問題、ヤングケアラー問題など多様かつ今日的な社会問題を詰め込んだミステリとなっている。ただし読み進めていくうちに主人公の娘があまりにもいい加減に書かれていることに違和感を抱くし、村の描写が中弛み気味であるのも気にかかり始める。「娘」については結末部分で種明かしされるのだが、しかしそれが逆に、どこまでが主観でどこからが客観なのか、事実と妄想の境界はどこなのか、が却って曖昧となっている印象がある。加えて主人公が「アルツ村」に至る直接のきっかけになった「事件」はそのままほったらかしなのもひっかかる。結末部分を整理して貰えたならばより面白いものになるだろうと思われる。
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