新説登場で議論勃発
しかし、フランツェンたちの論文が発表された2009年のうちに、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(アメリカ)のエリック・R・シーファートたちが、エジプトの始新世後期の地層から化石が発見された、新たな霊長類として「アフラダピス(Afradapis)」を報告。「ダーウィニウスに近縁のアダピス類」と位置付けたのちに、「アダピス類は“ヒトに至る系譜”にはつながらない」とした。
改めて117種の霊長類の形態を調べたところ、アダピス類には、“ヒトに至らない系譜”との共通点の方が多いという。ダーウィニウスにみられる“ヒトに至る系譜”の(ような)特徴は、進化の過程でそれぞれ独自に獲得されたものが結果として似る現象ーー「収斂進化」であると指摘された。
アダピス類が“ヒトに至る系譜”につながらないとしたら……彼らは、のちに「曲鼻猿類(きょくびえんるい)」と呼ばれるグループに至ると考えられている。キツネザルの仲間だ。
「キツネザル」という名前はこのグループの特徴をよく捉えており、吻部が長く、顔つきはキツネに似ている。“ヒトに至る系譜”はこちらではない。したがって、ダーウィニウスも、人類の祖先とは“別の系譜”となる。
アダピス類とオモミス類の議論は、行く末を見守る必要があるとしても、その後の霊長類は、またしても2つのグループに分かれることになる。
一つは先ほどの「曲鼻猿類」であり、もう一つは「直鼻猿類(ちょくびえんるい)」である。「直鼻猿類」は、吻部が短く、いわゆる「サル顔」だ。“ヒトに至る系譜”は、直鼻猿類に属している。“人類に連なる物語”は、直鼻猿類で続くのだ。
*こちらの続きは、5月17日(金)公開予定です。
ヒトに至る長い進化の道程を、およそ70の道標を頼りに旅するーー脊椎動物の先祖が、どのように体を変え、新しい特徴と能力を手に入れ、サピエンスへ近づいてきたのか。様々に枝分かれを繰り返すなかで、ホモ・サピエンスへとつながる道筋をたどる大進化史。