「若い頃に比べて目元にハリがなくなった」「まぶたがたるんで目が小さくなった」「まぶたが開きにくい…」などとお悩みのあなた、それは単なるたるみではなく、眼瞼下垂(がんけんかすい)という病気かも。70才以上の約3割はなるというこの症状について、専門医に解説いただいた。保険適用の手術をうけた実例ビフォー・アフターも紹介する。
教えてくれた人
金沢雄一郎さん/眼瞼下垂治療専門の形成外科医。独立医師として複数のクリニックと提携し、東京・大塚の「酒井形成外科」などで診察・手術を行っている。
吉木伸子さん/よしき銀座クリニック・院長・皮膚科医
「眼瞼下垂」芸能人も続々と手術を公表
眼瞼下垂が一般に知られるようになったのは、20年ほど前。眼瞼下垂に特化した形成外科専門医の金沢雄一郎さんは、その経緯をこう語る。
「加齢による眼瞼下垂が肩こりや頭痛、疲れやすさに影響していることがわかり、それが一般に紹介されるようになりました」
当初は「眼瞼下垂の治療=美容整形」と受け取られることが多かったが、病気の治療であることが認知されると、公表する有名人も現れた。
和田アキ子さんは2018年12月『アッコにおまかせ!』(TBS系)の生放送で手術を受けたことを報告。2019年10月には修正手術も報告している。
山口いづみさんは手術の様子を2020年2月放送の『爆報! THEフライデー』(TBS系)で詳しく紹介している。
さらに自身のブログで、手術に踏み切った理由を<心が頑張れなくなったから>とし、
<私の場合は右まぶたが瞳にかかるほどになり、気が付くと無意識に右手でまぶたをあげながらPCで作業したり運転したりしていました。 首肩が激しく凝り、頭が重く、関連性ははっきりしませんがドライアイが酷くなり、まぶたの落ちている方の角膜に傷ができて充血し、角膜を保護する目薬やステロイドの目薬を使い続ける日々でした> と綴っている。
北斗晶さんは今年6月、眼瞼下垂の手術をしたことをブログで公表した。
まぶたが下がる眼瞼下垂(がんけんかすい)とは?
眼瞼下垂はなぜ起こるのか。前出の金沢さんは、次のように説明する。
「これは眼瞼(まぶた)が下垂(垂れ下がる)病気です。
私たちが目を開けるとき、まぶたにある眼瞼挙筋(きょきん)が収縮し、腱膜(けんまく)を介してまぶたが引っ張り上げられて目が開きます。ところが、加齢や損傷でこの腱膜が劣化し機能しなくなると、使い古したようにまぶたが下がるのです」
正常な状態と眼瞼下垂との違い
眼瞼挙筋の力が衰え、挙筋腱膜が薄くなり、眼瞼挙筋と瞼板との結合が緩む(伸びる)と、瞼板をうまく引き上げられずにまぶたが下がる。
【正常な状態】
【眼瞼下垂の状態】
眼瞼下垂の原因や症状は?軽度から重度までイラスト解説
「目をゴシゴシこすったり、ハードコンタクトレンズを長年使用してまぶたに物理的な負担をかけると、腱膜が破断しやすくなります。また、まぶたは眼瞼挙筋にぶら下がっている状態なので、強い負荷がかかって腱膜が劣化すると持ちこたえられなくなり、眼瞼下垂になります」(金沢さん・以下同)
まぶたが落ちて黒目にかかると視野が狭くなる。
「それでも何とか目を開けようとすると、余計な力がかかり、おでこなどの筋肉が緊張したり、交感神経が興奮したりして、肩こり、頭痛、眼精疲労、心身疲労、不安障害、自律神経失調症などの症状が現れるのです」
眼瞼下垂の症状には軽度~重度があり、「どの程度、皮膚が垂れ下がっているか」により分類される(イラスト参照)。
眼瞼下垂を改善する治療を受ける場合、中等度(黒目の中心にある瞳孔にまぶたがかかっている状態)以上が保険適用の目安となる。目の開き具合は自分で確認しづらいので、自然に目を開けた状態を写真に撮り、黒目の見え具合を確認してみよう。
眼瞼下垂の症状
・正常
目を見開いたときに眼球の上の白目が見える
・軽度下垂
まぶたが黒目にかかる状態
・中等度下垂
瞳孔の上側が一部隠れる状態
・重度下垂
瞳孔が半分以上隠れる状態
いますぐ確認!「眼瞼下垂の徴候がわかるチェックリスト」
まずは自分の目の具合を見てみよう。下記の16項目のうち、10個以上該当した場合、眼瞼下垂がかなり強く疑われる。6~9個で中等度、4~5個だと関連は弱く、3個以下なら心配なし!
※主観を基準にしたチェックのため、確実な診断は医師による評価が必要です。
□ おでこのしわがある(眉が上がる)
□ 頭痛が月に1回以上ある
□ 慢性の肩こりがある
□ 慢性の腰痛がある
□ ドライアイのため点眼している
□ 不眠がある
□ 体が疲れやすい
□ コンタクトレンズを20年以上使用している
□ 花粉症もしくはアトピー性皮膚炎がある
□ メイクをする習慣がある
□ 40才以上である
□ 目が落ちくぼむ
□ あごを突き出している
□ 背中が丸くなってきた
□ 顎関節症がある
□ 不安障害がある
出典:眼瞼下垂治療専門の形成外科医・金沢雄一郎さんのウェブサイト「まぶたのお医者さん」
「この16項目は、眼瞼下垂の症状であり、眼瞼下垂になりやすいポイントでもあります。おでこのしわや眉が上がるといった見た目の症状は、まぶたを開くために無理をしているサイン。肩こりや頭痛もおでこの筋肉の使いすぎが原因かもしれません。あごを突き出すのは、開かない目で見ようとするための姿勢です。6個以上該当すれば、眼瞼下垂かもしれません」(金沢さん)
ただ、チェックリストで6個以上に該当したからといって、生活に支障がなければ手術をする必要はない。保険適用の手術は、あくまで“生活に支障があるから”という前提あってのことだ。
眼瞼下垂の治療法「専門医に相談を」
「私も眼瞼下垂かも」と思ったら、眼科や形成外科を受診して正確に診断してもらおう。
すでに、ドライアイや白内障などの目のトラブルで眼科に通っている場合は、「最近まぶたが下がって見えづらい」などと医師に症状を訴え、相談するのがおすすめだ。
「眼科では、まずどのくらい見えているか、ほかの病気が隠れていないかなどを調べるために、視力と眼圧の測定、眼底・視野検査などを行い、目の機能も検査します。ただ眼科医の中には、眼球まわりのことは詳しくても、まぶたはあまり触りたくない、メスでの切開には抵抗があるという医師がいます。その場合は、必要に応じて医師を紹介してくれるでしょう。
一方、形成外科は体の欠損部分の形や機能改善を外科治療する分野ですが、私のように眼瞼下垂が専門の医師もいます。ホームページなどで医師の特性を調べた上で相談してみるといいでしょう」(金沢さん)
診断~治療の流れ
【1】整形外科・眼科を受診
眼瞼下垂に対応しているクリニックを選ぶこと。美容(整形)外科では保険適用外のことが多いので注意を。
「眼瞼下垂は緊急性のある病気ではないので、医師選びに時間をかけ、納得できるまで説明し、不安なく施術してくれる医師を選ぶこと。これは直感でもいいと思います。信頼のおける医師なら、術後の満足度も高まります」(金沢さん)
【2】診断・病名の確定
<診断結果>
A:眼瞼皮膚弛緩症
B:眼瞼下垂(1)軽度 (2)軽度 (3)重度
C:重症筋無力症など
【3】対処法などを選ぶ
<診断結果>
A:眼瞼皮膚弛緩症
B:眼瞼下垂(1)軽度
対処法:メイクなどでセルフ対処/アイテープなどによるまぶた持ち上げで、一時的に対処可能
対処法:保険適用外(自由診療)/目の開きを美しく整える目的の手術。
<診断結果>
B:眼瞼下垂(2)中等度
B:眼瞼下垂(3)重度
対処法:保険適用外(自由診療)/目の開きを美しく整える目的の手術。
対処法:保険適用/目の開きの機能改善が目的。
<診断結果>
C:重症筋無力症など
対処法:神経内科へ
想定される術式
■埋没法
皮膚を切らず、余分な皮膚を、上まぶたの裏と表を通して医療用糸で折り込んで留める方法。
■眼瞼皮膚切除法
たるんだ余分な皮膚を切り取って整える方法。二重のラインや眉のすぐ下を切ることが多い。
■挙筋前転法
上まぶたの皮膚を表、または裏側から切り、伸びた腱膜を縫い縮めて固定する方法。
「まぶたには2枚の層があり、表側の前葉に皮膚と眼輪筋と隔膜、裏側の後葉には瞼板、眼瞼挙筋、ミュラー筋、まぶた結膜がつながっています(上記 正常な状態・眼瞼下垂のイラスト参照)。前葉、後葉のどちらに原因があるのかを見極めて修復するのはとても繊細な手術ですので、専門医による執刀をおすすめします」(金沢さん)。
■前頭筋吊り上げ術
額の筋肉を利用して筋膜か人工のシートで眉とまぶたをつなぎ、上まぶたを持ち上げる方法。
※埋没法はいわゆる二重まぶた手術に見られる術式で、医師の判断によるが、保険適用されないことが多い。その他の3つの術式は原則的に保険適用される。
加齢による眼瞼下垂と診断されれば手術が保険適用に
眼瞼下垂によく似た症状の病気に「眼瞼皮膚弛緩(しかん)症」がある。これは加齢や紫外線などの影響で上まぶたの皮膚がたるむ病気だが、筋肉の働きは問題ないのが特徴。加齢による眼瞼下垂との合併症であることも多い。こちらも日常生活に支障があれば保険適用になる。
また、自己免疫疾患の1つである重症筋無力症でも眼瞼下垂が起きる場合があり、疑われる場合は神経内科を受診しよう。
とはいえ、眼瞼下垂の原因となる劣化した腱膜を元通りに回復させる方法はない。軽度のうちは、アイテープや二重にする接着剤などで一時的にまぶたの重さを解消する方法があるが、機能を取り戻すには残念ながら手術するしかない。
中等度以上の眼瞼下垂で生活にも支障がある場合は、おおむね保険が適用され、5万円程度(3割負担の場合)で両目の手術が可能。保険適用外の自費の目安は20万~50万円だ。
保険適用の手術をした実例ビフォー・アフターを公開
「50代の頃から目の開きづらさが気になっていた」とAさん(76才、下記写真)は言う。
「60才になる少し前に美容外科の看板に『眼瞼下垂』とあるのを見かけて相談に行ってみたら、『20万円以上かかる』と言われ、そのときは諦めました」(Aさん・以下同)
その後25年近く、二重にするアイテープをまぶたに貼ってごまかしていたが、目の開きづらさが解消されることはなかった。そんなAさんに転機が訪れたのは2022年4月のこと。
「数年前から白内障とドライアイの治療のために眼科に通っていたのですが、ある日、受付の女性(40代)がくっきり二重のパッチリ目に変身しているのを発見! 聞いてみたら、『眼瞼下垂の手術をした』と言うんです。
『こんな若い子でも手術するのか』と驚いていたら、『Aさんのまぶたも下がっていますね。一度受診してみますか?』と眼瞼下垂手術の専門医を紹介してくれました。それで1か月後に受診し、その場で手術の予約をしました」
いつも通っている眼科に月に一度非常勤で来る、眼瞼下垂の専門医が親身に話を聞いてくれ、説明もとてもわかりやすくて信頼できると確信したという。
★中等下垂で保険適用手術をしたAさん(76)の場合
手術前~手術から約1年後
二重の線のところを切開し、伸びた腱膜を縮める術式で、約1週間は外出を控えた。現在、術後1年以上経ったが、「(視野を含めて)目が3倍大きくなった!」と実感している。
眼瞼下垂手術の費用と術後の経過「約5万円でお釣りが!」
「日帰り手術という手軽さも魅力でしたね。保険適用だから、手術代だけな5万円でお釣りがきました。
まぶたを切ったみたいだけど、麻酔が効いていたからよくわからない。当日は痛み止めをのみましたが、切ったという違和感と腫れがある程度で痛みなどもありませんでした。ただ、術後にガーゼを当てた状態で帰るのは想定しておらず、タクシーを呼んでもらって帰りましたが、遠方の病院で手術を受ける場合は、付き添いがいた方がいいかもしれませんね。
1週間くらいは腫れがあり、外出は控えました。2週間後には眼鏡をかけて友人とランチに出かけましたが、全然気づかれませんでしたよ(笑い)」
手術前の問診で、どのような二重にしたいかを聞かれたので、「できるだけ自然に」とリクエストしたという。
術後1年が過ぎたいまも「若い頃の目元がよみがえった」とAさんは術後の仕上がりに大満足している。
「とにかく視野が広がったのがいちばん。肩こり、頭痛などの症状もなくなりましたから、もっと早く手術を決断すればよかったと思っています。視界が開けて世の中が明るくなり、気分もパーッと晴れました」
Aさんが言うように、眼瞼下垂は目以外の場所にも不調が表れ、目の機能を取り戻すとともにそれらの症状も改善される。気になる人は、前述のチェックリストで、眼瞼下垂に起因する症状があるかどうかを、ぜひ確認してほしい。
より美しくなりたい!自費手術がおすすめのケースも
「当クリニックでは、保険の手術か自費の手術かを選択していただいています」
と言うのは、形成外科・美容外科の診療科がある「よしき銀座クリニック」院長の皮膚科医・吉木伸子さんだが、吉木さんはこう語る。
「保険でできるのは機能改善が主目的になります。ただ、『せっかく手術するなら、より美しい目元になりたい』というかたには、自費での手術をおすすめします。自費で手術をする場合には、まぶたのたるみや目尻のしわを同時に取ったり、美しい二重に仕上げたりすることが可能になります。さまざまな術式の中から、好きに選んで希望を叶えるのが自費の手術のメリットです。
まず保険で手術をしてみて、やはり二重の幅が気になるということであれば、後から自費の手術で修正をする、というかたもいらっしゃいます」
軽度の眼瞼下垂「まぶたを切開しない埋没法」自費治療の症例
数年前から「おでこの筋肉を使わないと目が完全に開かない状態」が続いていたMさん(56才、写真)。アイテープで無理やりまぶたを押し上げていたが、それもここ1年で限界、左のまぶたは3分の1くらいまで下がってしまった。
「私は美容クリニック数か所でのカウンセリングを経た後、形成外科医に診てもらいました。そこで『軽度の眼瞼下垂と眼瞼皮膚弛緩症がミックスした状態』という診断を受けました。その医院で詳しい説明を受け、眼瞼皮膚弛緩症を改善するための切らない手術『埋没法たくし上げ』を受けることにしました」(Mさん・以下同)
手術当日は術前2時間前までに食事を済ませ、ノーメイクで来院。術後の目元のデザインを確認した後、目薬タイプの麻酔+静脈麻酔を行い、30分ほどで手術は終了した。
「意識はあるので、縫っているという感覚はありましたが、まったくといっていいほど痛くありませんでした。帰宅後は、『泣きはらしたくらい』の腫れで、内出血はややありましたが、目を閉じなければわからない程度でした。薬は化膿しないように処方された抗生物質を3日分のんだだけで、痛み止めは一度ものまずじまいでした」
手術当日の入浴は不可。シャワーは可能だが、翌日の夜まで顔や髪は洗えない。アイメイクは1週間不可だった。
「最大に腫れたのは翌日。3日目まではしっかり冷やし、その後は湯船につかって血流を促したのがよかったのか、1週間後には『目はパッチリしたけど、自然だから言われなければわからない』と夫に言われました。
術後1か月以上経過すると腫れの左右差がなくなり、ごく自然な二重が復活。肩こりと首こりがなくなり、目の疲れも大幅に減少、機能面でも大満足です。私の場合は自費なので、薬代も込みで約20万円。この値段で機能面がこんなに変わるなら、むしろ安いと思います。また何年後かに眼瞼下垂になったら、同じクリニックで、切開法でやってもらうつもりです。それくらい信頼できる形成外科の医師でした」
眼瞼皮膚弛緩症のМさん(56)の術後経過
手術直後
半目開きにすると、埋没法を行った場所がよくわかる。
翌日のMさん
1か月経過したMさんの目元
アイメイクをした状態。すっかり腫れが引き、目がパッチリ。二重の幅が自然で、まつげの生え際も見えるようになった。
***
こうした声を聞いても、まぶたを切るのは怖い…という人もいるだろう。
「医師に相談して『やっぱりやめた!』でもいいんです。いまはレーザーなどでたるみを改善する方法など美容医療の進歩により、選択肢は増えています。いずれにせよ、自分の意志で、納得して施術を選択することがいちばんです」(吉木さん)
取材・文/山下和恵
※女性セブン2023年10月26日号