物語はホンロンワンが巨大かつ強大で知恵さえ併せ持つ黄金の竜だった頃から始まります。
個として生き、同族意識すらなく、共食いする竜たちに秩序をもたらし、統べるよう神から命ぜられます。
努力が功を奏し繁栄したにも関わらず、その後、私利私欲に目がくらみ、様々な武器で竜を狩り殺戮する人間たちに怒り狂い
竜たちは地上すべての生き物を殺しつくそうとします。そして神の怒りをかい、鉄槌をうけ死に絶えるところでした。
ホンロンワンは、神に許しを乞い、その身に代えても竜族を守ろうとし、様々な枷を負う事で、生存を認められたのです。
人の身と竜の体に分けられ、竜王のみが、食物ではなく、人間からの魂精でしか生きる糧を得られない。
永い時探し続けてやっと、自らに魂精を与えうる、龍成（たつなり）を見つけました。どれほどの安堵であったか…。
闘い続けるような時をずっと過ごしてきて…。眠る幼き龍成とホンロンワンの、ひたき先生のイラストが秀逸です。龍成の愛らしい事!
ホンロンワン、フェイワン、シｲンワン、深紅の髪の優しくも、威風堂々たる竜王の描きわけが、その人となりさえ表して見事。
その挿し絵に裏打ちされて、紡がれていく、愛の物語。これは壮大な叙事詩であり、叙情詩です。
黎明の空とは実にいい得て妙だと思います。魂精は他編では大和魂、気の力とも表されていましたが、深い慈愛の心ではないかと思いました。
竜、獣の心から、龍成により愛を知り、愛を交わして、人間らしい人間にかわっていく、ホンロンワン。建国半ばで寿命尽きる時をむかえ、
憎むべき相手でさえあったはずの人間になれて良かったと、心からの感謝と幸福のなか、息をひきとります。
やがて息子のレイワンが国王として成長し、難航をきわめた初めての外交を成し人間の国と初めて国交を成し遂げたその知らせの先、
彼を支え続けた龍成も倒れ、安心したように、笑みをうかべながら、逝きます。懐に初めての”子”をひっそりと抱いて…。
ふたりが死してなお、物語は続いていきます。これは始まりの物語だから。生まれた愛は決して死ぬ事はない、これから子々孫々まで
ずっと、ずっと、受け継がれていくのだから。
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