1on1(ワンオンワン)とは?目的やメリット、部下の成長を促すテクニックや話題例を紹介 | 株式会社ソフィア

1on1(ワンオンワン)とは?目的やメリット、部下の成長を促すテクニックや話題例を紹介

目次

個人面談といえば期末に実施する人事評価面談を思い浮かべる人が多いと思われますが、最近は米国シリコンバレー由来の「1on1(ワンオンワン)」という新たなミーティングの手法がトレンドになっています。
ヤフー株式会社をはじめ日本の大手企業でもこの1on1の採用が進んでいますが、1on1は組織の規模にかかわらず、これからの人材育成において非常に効果的な施策といえるものです。

本記事では、1on1の概要と実施のステップをテーマに解説します。

1on1(ワンオンワン)とは

1on1(ワンオンワン)とは、上司と部下が一対一で行う面談です。上司と部下の面談には業務の進捗確認や目標設定、人事評価面談などの面談が挙げられますが、1on1はこれらのどれとも異なります。

これまでの人事評価面談との違い

1on1(ワンオンワン)と従来の面談との大きな違いの1つは、実施サイクルです。従来、日々の業務指示やタスク管理とは別に上司・部下間で行われる一対一の面談は、四半期あるいは半年に1回が主流でした。対してシリコンバレー由来の1on1は、週に1回、最低でも1ヶ月に1回の短いサイクルで定期的に実施されます。また面談の時間も長くて30分程度です。

また1on1は実施目的も異なります。これまでの面談は、上司から部下への指示や指摘、連絡事項が目的でした。それに対し1on1においては、上司は部下から日常の悩みや不安、業務に関する課題感などに耳を傾けて積極的に引き出すことが目的です。これはコーチングのような関わり方ともいえます。

さらに、面談における関係性も1on1では従来の面談と大きく変わります。例えば人事評価面談は、上司と人事担当が部下に評価結果を納得してもらうために行うことから、自ずと上下の関係となります。一方で1on1にもやはり役職の上下関係はあるものの、内容が一方的な通達ではなく「対話」であることから、お互いの立場を取り払って同じ目線で対話を行うことが前提となります。

 1on1(ワンオンワン)が注目される背景

なぜ今企業において1on1が注目されているのでしょうか。ここでは、テレワークの普及と管理職の役割の変化の面から解説していきます。

テレワークの普及

もともと1on1(ワンオンワン)は、米国シリコンバレーの企業文化として古くから導入されていましたが、日本では2012年にヤフー株式会社が導入を始めたことをきっかけに国内でも1on1が広まることとなります。

簡単に言えば、1on1(ワンオンワン)はマネジメント手法の1つです。1on1(ワンオンワン)が導入されるようになった背景には、テレワークの普及が関係しています。

国土が広く時差のある米国では、日本よりも早いうちからテレワークの普及が進んでいました。社内のコミュニケーションラインをデジタル化させることで、テレワークというワークスタイルを実現しました。

デジタルコミュニケーションは業務のやり取りにおいては効率的なものでしたが、一方でこれまで対面であれば自然発生的に生まれていた雑談など非公式なコミュニケーションがまったくなくなってしまいました。そのテレワークによって失われてしまったコミュニケーションを補完する役割として、一見無駄にも思える、非効率的な一対一のコミュニケーションの場が取り入れられるようになったのです。

なお、1on1がシリコンバレーで浸透する際、ともに広がった「ノーレイティング」という人事評価制度があります。ノーレイティングとは、端的に説明すると社員を職務のランクに当てはめて相対的に評価するのではなく、社員一人ひとりの目標設定とフィードバックの中で絶対的な評価を行い、上司が部下の給与を決定する新たな評価制度です。

従来、昇給やボーナスは総額人件費の範囲内で行われるため、あるチームの中ではSをつけたいと思っていても、会社全体ではBにせざるを得ないというような調整が入りますが、それがなくなるということです。

人事ではなく直属の上司が部下の賃金査定を行うノーレイティングは、一人ひとりに合わせた相対的な評価が可能になる反面、賃金に関する責任と権限を上司が握ることで部下との関係性に緊張をもたらしたり、上司の業務負荷を高めたりもする諸刃の刃です。ノーレイティングのデメリットを減らしてメリットを享受するためには、上司・部下間のコミュニケーション強化がカギとなります。そのため、目標の振り返りとフィードバック、見直しを短いサイクルで定期的に行う1on1との親和性が高いとされています。

日本企業では「人に仕事を割り当てる」職能資格制度が圧倒的多数を占めていることから、国内では1on1の必要性についてあまり注目されてきませんでした。しかし昨今のグローバル化によって従来の評価制度にも疑問の声が上がり、評価やフィードバックを行う手法の1つである1on1が注目を集めるようになったわけです。そして、1on1は、コロナ禍におけるテレワークの普及により、形を変えてしまったコミュニケーションの余白を埋めるために必要な施策として、今あらためて注目されています。

前述した通り、米国と日本では導入されてきた経緯や背景が異なります。そのため、1on1の機能や効用を確認して、自社の状況に合わせて導入する理由を社員へ伝える必要があります。

管理職の役割の変化

近年ではIT企業を中心に、海外と日本の管理職の役割にさらに変化が生じています。とくに注目されているのが人事の領域で、従来の管理職型から1on1を取り入れた人事マネジメントへの移行です。日本・海外ともに、管理職として社員の離職率を下げることとエンゲージメントを高めるゴールは同じですが、賃金・待遇といったわかりやすいリターンでは、社員を自社に繋ぎ止めておくことは難しくなってきており、その部分への対応に日本・海外で違いが出ています。

価値観が多様化し、キャリアについてさまざまな考えを持つ社員が増加した現代において、賃金・待遇でも離職率・エンゲージメントをある程度は制御できますが、根本的な人事の改善にはならないと海外企業は気づいています。

ここにきて生成AIなど、これまでにない高度な技術の登場により、単純なルーティン業務の多くは自動化されることは間違いありません。人間としての創造性が求められる現代のビジネスパーソンは、これまで以上に個々の価値観を大切にしています。今後日本国内の企業でも、1on1によるコミュニケーションを用いた、個別最適化された人事マネジメントに注目が集まることは間違いないでしょう。

しかし、多くの日本企業の管理職は、既存の業務や部下のフォローやマネジメント業務に加えて、1on1ミーティングをしなければならないという状況にあります。時間的な制約や業務量の増加などの理由から、1on1ミーティングを実施できていないケースもあり、実施できても、適切な準備がされずに行われ、効果を発揮せずに終わるという課題があります。

1on1(ワンオンワン)の目的とは

社員の離職率やエンゲージメントに好影響があることはお伝えしました。しかし、離職率の低下やエンゲージメントの向上は、現場で積み上げた物事の結果でもあり、やや抽象度が高い説明だとも言えます。ではもう少し抽象度を下げ、現場レベルで1on1を見た場合、具体的にどのような目的があるのでしょうか。

1on1(ワンオンワン)の目的

1on1は、上司と部下の間のコミュニケーションの頻度を増やし、上司が部下との対話を通して、部下の自立的・自発的な成長を促すきっかけを作る場です。部下が抱えている悩みに寄り添いながら共感し、上司自身の経験や知識を使いながらアドバイスをすることで、部下を成長させる育成が目的になります。

言い換えると、上司が部下の悩みに寄り添うことで安心感を抱いてもらい、ガス抜きによってメンタルを調整し、モチベーションを高めながら潜在的な能力を引き出してもらうことがゴールです。

1on1(ワンオンワン)は意味がない?

1on1は、部下の成長という適切な目標を持って行えば高い効果を発揮します。しかし、社員が1on1のコミュニケーションに慣れていない場合、部下に業務の指示を出したり、部下の情報を聞き出して管理することを目的にしてしまうことがあることも事実です。このようなやり方では、部下が1対1で上司に詰められているような印象を抱きかねないため、意味がないどころか逆効果になってしまいます。

1on1は上司・部下と人間同士のコミュニケーションを取り、信頼を得ながら部下のモチベーションを高めることが大切です。その結果、部下に自走してもらうことで能力を高めてもらい、成長してもらう場だと認識して実施しなければなりません。

また、企業や部署によって1on1の目的は異なりますが、実は多くの職場や管理職が常に個別のコミュニケーションを取っています。そのため、1on1の実施を管理するのではなく、一定のレベルで現場に責任を委譲しないと、うまくいかない場合があります。

1on1(ワンオンワン)の効果

ここまで、1on1の概要を解説しましたが、具体的にどのような効果があるのでしょうか。ここからは、1on1を実施することで得られる効果について見ていきましょう。

部下との信頼を構築できる

1on1は上司と部下の信頼を構築する場であり、業務上での関わり方とは違った、人間味のあるコミュニケーションを行う時間です。業務に関する指示・報告などの情報共有を行う場ではなく、部下のパーソナルな部分に踏み込んで対話を行う空間であることがポイントでしょう。

たとえば、「体調はどう?」「今の職場の人間関係はどう?」「どんなキャリアを想像して働いている?」など、上司は部下個人の悩み・考えに寄り添うことが大切です。1on1を通して上司と部下が相互理解を深めることで、悩み相談や業務上の報連相がしやすい関係性を構築できます。

部下の成長を促すことが可能

1on1は、フィードバックの場としても高い効果を発揮する場で、部下の成長を促すこともできます。1on1では、上司と部下がパーソナルな部分に踏み込んだ対話を行いつつも、業務に関する失敗・成功体験についても振り返ることができます。

この時、部下は上司と一緒に自身の行動を見つめ直すことで、客観的な視点を入れながら具体的な修正点や課題を発見することができます。このような気づきは部下のキャリア開発にも大きく影響するため、今後の業務に対する向き合い方を一段深くし、自発的・自立的・主体的に行動する成長を促すことにもつながります。結果、企業・組織の視点でも、生産性の向上・サービスや商品の質の向上などに寄与すると言えるでしょう。

1on1(ワンオンワン)がうまくいかない理由

1on1はただ闇雲に実施すれば良いというわけではありません。親密で個別最適化されたコミュニケーションを機能させ、部下や社員の行動にポジティブな影響を及ぼすには、おさえておくべき点があります。

ここでは、1on1がうまくいかない理由について解説し、合わせて対処法についてもお伝えします。

1on1(ワンオンワン)の背景や労働環境を理解していない

1on1がうまく機能しない理由の1つに、労働環境が変化し、それに伴って企業・組織で働く人が多様化していることに対応できていないことも挙げられます。厚生労働省の労働白書を参考にすると、日本国内の労働人口は、少子高齢化などの構造的な理由から減り続けているのが実情です。生産労働人口が減少している状況下では、労働力市場での供給が減少し、これにより雇用者側の立場が相対的に強化されています。通常、需要と供給のバランスが崩れると、需要側である雇用主は、求める労働力を見つけることが難しくなります。

これまでの日本社会では、専業主婦や定年退職することも選択肢として比重を占めていましたが、これからの時代は社会を維持するため、女性・シニア世代が積極的に労働人口に加わる必要が出てきています。そのような実情もあって、人手不足による会社倒産は増加しています。

さらに、近年では外国人労働者も増えていますが、同時に移民問題として課題が取り沙汰されることも事実です。いくら人手不足だからとはいえ、外国人労働者の場合、言語や文化的背景の違いもあるためコミュニケーションコストがかかるだけでなくに、技能的な問題もあります。

すでに日本の多くの企業はなんらかのサービスを提供する業態であり、さらに製造業などモノ作りの現場においてもデジタル化が進んでいるため、業務に携わる従業員が「いかに創造性を発揮できるか」がキーポイントになってきています。企業にとっては、創造性を考慮した人材育成や、デジタル技術を駆使した生産性の向上は社の存続にかかわる命題であり、ビジネスの競争に勝つために必要な課題です。

組織構造をミクロ視点で見た際、1on1で行うべきことは、パーソナルな部分に踏み込んだ密な対話です。1on1による、親密で個別最適化されたコミュニケーションによって部下・社員の動機付けやモチベーション向上を図り、業務における創造性の領域、アイデア出し・ブレスト・議論・合意形成といった、形にできない場の質を創造性に適した形につなげることが重要になっていると言えるでしょう。

1on1(ワンオンワン)による上司と部下の関係性と組織文化

1on1は従来の上下関係に基づくコミュニケーションの枠組みを越え、上司と部下が対等な立場で意見交換を行う機会を提供します。このような環境では、部下は自由にアイデアを提案し、上司とのコミュニケーションを通じてフィードバックを受け取ることができます。これにより、組織内での新しいアイデアの創出や問題解決が促進される可能性があります。

近年、FA(ファクトリーオートメーション)やAIによる自動化の進展により、組織の管理や企画部門もデジタル化されています。このような変化により、従来型の組織構造は徐々に消滅し、よりフラットな組織構造が求められるようになります。フラットな組織構造では、上司と部下が対等な立場で意見交換を行い、創造的なアイデアを生み出すことができます。そのため、1on1は組織内でのイノベーションや成果の向上に貢献する可能性があります。

しかし、1on1はアイデア・提案を出すための唯一の方法ではありません。チームミーティング、ディスカッション、ブレインストーミングなど、状況に応じて適切なコミュニケーション方法を選択することの方が、1on1に固執するより遥かに重要です。とはいえ、従来の上意下達文化があった企業が、1on1を導入することで、部下のエンゲージメント向上や離職率低下に成功した事例もあります。これらの企業は、1on1の目的を明確に定義し、上司と部下が互いに安心して意見交換できる環境を整備したため、1on1の効果を高めることができました。

1on1は、企業・組織の状況や社内文化に合わせて適切に導入することで、高い効果を発揮します。形式的な導入は避け、信頼関係に基づいたオープンなコミュニケーションの場として活用することで、企業・組織全体のパフォーマンス向上に寄与する手段になります。

1on1(ワンオンワン)のスキルがない

多くの企業・組織では、管理職のコミュニケーションスキル不足を課題として捉え、1on1を導入しています。たしかに、管理職が部下との良好な関係を築き、適切な指導を行うためには、優れたコミュニケーションスキルが不可欠です。

しかし、見落としてはいけないのは、部下側もコミュニケーションスキル不足に悩んでいるケースが少なくないことです。自身の意見をうまく伝えられない、人間関係上の衝突・葛藤を避けようとする、なんらかの心理的な課題を抱えているなど、さまざまな要因が考えられます。

とはいえ、部下全員にコミュニケーションに関する研修を実施するのは、時間とコストがかかるため現実的ではありません。そういった場合、コミュニケーション関連のゲームやツールを1on1に導入することで、対症療法的な1つの手段としてコミュニケーションスキル不足を解消することもできます。

しかし、コミュニケーション不足に対し、完全に構造化して対応することは不可能です。そのような状況では、コミュニケーションの専門家によるコーチングやコンサルタントの力を借りることで、より効果的な1on1を設計・実行することができます。

専門家は企業の文化や課題・問題を理解した上で、1on1の進め方に関するアドバイスを行うことができるため、無理に内製化せずとも確実にコミュニケーションスキル不足を解消することができます。

1on1(ワンオンワン)のメリット・デメリット

日本で1on1(ワンオンワン)をいち早く導入したヤフー社には、明確な目的がありました。それは、上司と部下のコミュニケーションの頻度を高め、彼らの対話を通して、部下の自発的な成長を促すというものです。

1on1(ワンオンワン)のメリット

1on1の特徴である頻度の高い対話と傾聴の姿勢には、部下の成長を促進し能力を引き出しやすいというメリットがあります
引き続きヤフー社の1on1を例に挙げると、同社では「部下のための時間」と位置付けて毎週1回30分の面談を実施しています。1on1の中で上司は部下の心を開くことに注力し、部下の考えを引き出し課題解決の支援を行うのですが、ここで上司の考えを押しつけたり、物事の方向性や結論を決めてしまったりはしません。あくまで部下自身が課題に気づき、解決策を自ら考え、実践するという一連の取り組みをサポートすることで、成長を図るだけでなく意欲づけや動機づけをも行うのです。

またこうしたコミュニケーションを行うことで、上司と部下の信頼関係も築きやすくなります。部下にとって「自分を見てもらえている」「自分の話を聞いてもらえている」「自分をサポートしてくれている」という上司の姿勢は、「一方的にこうしろ、ああしろと言われる」「自分の状況を把握していない」「聞いてくれない、分かってくれない」というものと比べて圧倒的に信頼へとつながりやすいでしょう。さらに1on1による対話は、部下の評価に対する納得感も得やすくなる特徴もあります

 1on1(ワンオンワン)のデメリット

半期に1度、四半期に1度といったペースで行われる通常の面談と比べると、1on1の実施は時間的負荷が高い、という点はデメリットといえるかもしれません。
また、メリットの部分で「上司と部下の信頼関係を築きやすくなる」と解説しましたが、1on1はある程度の信頼関係が基盤となって初めて実施できるものです。

普段からコミュニケーションが活発でなかったり、言いたいことを言いにくい雰囲気であったり、上司が常に一方的な態度をとったりという状況では、いくら1on1を行っても効果は見込めませんし、1on1はそういった土壌をよくするために行うものでもないということをしっかりと理解しておいてください

なおこれは、1on1導入時に該当者へ調査を行うことで把握できます。「上司は効果を感じたが、部下はもうやりたくないと答えた」場合は危険信号です。すなわち、上司が「できたつもり」になっているという場合です。こういった状況に陥った際は、日常的なコミュニケーションから見直す必要があると言えるでしょう。表面上うまくいっていると思っていた上司・部下の関係性の実態があぶりだされるという点は、上司にとって1on1のデメリットと感じられる場合もあるかもしれません。ただし、人間関係の問題を早めに察知できるという面で会社にとってはメリットとも言えます

また、1on1には上司の傾聴に関する技量が問われます。「できたつもり」の一部はこれも原因かもしれません。商談で「アイスブレイク」という場の緊張を和らげる技法があるように、1on1でも部下から言葉を引き出しやすい雰囲気づくりが不可欠です。いきなり仕事の話を始めるのではなく、まずは雑談や近況報告などから会話を始め、話を少しずつ深く掘り下げていきましょう。

1on1(ワンオンワン)は部下との人間関係を創る場

1on1が生まれた経緯は、企業においてビジネスモデルの複雑化や新規事業の創出が不可避になってきたことに端を発します。組織内の形式的な人材育成システムや、評価制度の複雑化に伴う業務過多が、業務遂行に必要なパフォーマンスを引き出しにくくしているのです。そこから組織の機能不全が発生する恐れもあります。そういった背景から、個人の考え方や価値観など、仕事に関係するパーソナリティの部分を吸い上げて汲み取るコミュニケーションの仕組みが生まれ、1on1の普及につながりました。

1on1では部下のパーソナリティの中でも、「どんなことに興味や関心を持っているのか?」「逆にどのようなことを苦手や困難と感じているか?」「今後は中長期的に何を目指しているのか?」「それはなぜなのか?」といった、仕事上でのビジョンや展望について本音で腹を割って話せる機会を作れるとよいでしょう。1on1による関係の結びつきは一朝一夕で叶うものではありません。まずは簡単なやりとりから回数を重ねて徐々に部下の心を開いていくことを心がけてください。

職場は課題遂行と人間関係のジレンマが常に付きまとう

職場における課題遂行と人間関係のジレンマは、組織内のあらゆる場面で見られる普遍的な課題です。とくに、組織の生産性や効率性に影響を与える重要な要素となります。この課題を解決するために、「ゲマインシャフト(精神的情愛的)」と「ゲゼルシャフト(合理的功利的)」の概念が非常に役立ちます。

ゲマインシャフトは、組織内でのチームワークや協力関係を指し、メンバー間の信頼や共感、協力を重視します。一方、ゲゼルシャフトは、組織内での役割や地位、権力関係を強調し、効率や目標達成に焦点を当てます。

両者をバランスよく取り入れることで、組織内の生産性が向上します。ゲマインシャフトが十分に構築されている場合、メンバーはお互いをサポートし合い、問題解決や課題遂行が円滑に進みます。一方で、ゲゼルシャフトが強調されると、明確な役割分担や目標設定が行われ、効率性が高まります。

組織は、その文化や価値観、目標に応じて、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトのバランスをとる必要があります。これによって、課題遂行と人間関係のジレンマを克服し、生産性の向上につながるでしょう。

1on1(ワンオンワン)にまつわる3つの誤解

ここまでは、1on1ミーティングにおける話題の例や成功させるテクニックについて解説してきました。しかし、これまでの部下とのミーティングとは異なるため勝手がわからず戸惑うことや、部下から1on1ミーティングの話題について何も意見が出ないなど、悩みがつきないことでしょう。

ここからは、上司が陥りがちな1on1にまつわる誤解について解説していきます。

最初は完璧でなくていい

1on1ミーティングでは、最初からスムーズに会話が進むことはほとんどありません。

上司は、効果的なコミュニケーションとフィードバックのスキルに関して、時間をかけて学んで実践の機会を設けていく必要があります。どのようなアジェンダが部下の興味を引くのか、日々、1on1ミーティングを通じて、試行錯誤しながら検証していきましょう。

できないことはできないと伝えていい

1on1ミーティングの中で、部下の要望をすべて解決することは難しいでしょう。重要なのは、お互いのニーズや要望をしっかり伝え合う中で、「解決できることと、解決できないこと」、「支援できること、支援できないこと」などを確認していくことです。

表面的に取り繕うのではなく、正直で透明性のある開かれたコミュニケーションを、1on1ミーティングを通じて実現していきましょう。

その場で解決しなくていい

部下は、上司に相談することで、的確なアドバイスをその場でもらえると考えているかもしれません。しかし、相談の内容によっては、上司が即時に的確な回答ができないこともあるでしょう。

「すぐに回答やアドバイスできない」と、正直に部下に伝えた上で、「一緒に考えてみよう」という姿勢で、部下と同じ立ち位置で対話をすることも、時には必要です。

1on1(ワンオンワン)を実施するステップ

1on1(ワンオンワン)は従来の面談と異なり、しっかりと準備と計画を行った上で臨むことが重要です。フレームワークはありますが、細かな部分は企業それぞれで大きく異なるので、以下を参考にしながら自社に適したものへと進化させてください。

実施の目的を定める

「部下の成長を促すため」という1on1の目的については解説したとおりですが、より細かな導入の理由は各社で微妙に異なってくるはずです。この「理由」に上司と部下で共通理解がないと、1on1は効果的に進みません。もう少しわかりやすく述べると、「1on1を実施すること自体が押しつけの状態になっている」ようであれば、それは1on1の成立する条件が整っていないと言えます。部下から本音を引き出すためには、部下の協力が重要です。1on1実施の目的を明確にし、チームの中でしっかりと理解を得るようにしましょう。

内容を記録する

部下が勇気を出して打ち明けたことをもし上司が忘れてしまい、同じことを聞き出そうとしたら、築こうとしていた信頼が壊れかねません。内容が深くなればなるほど、それらをきちんと覚えておく必要があります。

議事録のように、上司がとったメモを部下と共有することが効果的とされています。認識の齟齬を防ぐという効果もありますので、忘れずに記録を行いましょう。

継続して実施する

実施のサイクルや1回あたりの時間は自由ですが、一度1on1を始めたら必ず継続して行うようにしてください。1on1が効果的に機能している時ほど、上司の都合で実施が後回しにされた際などに、これまで築いてきた関係性への影響が大きく出てしまうことがあります。場合によってはコーポレート部門の支援も得ながら、目的の達成を目指しましょう。

目的別、1on1(ワンオンワン)の話題例

1on1ミーティングは、目的を持って取り組まなければ終始雑談のみで終わってしまい、何を話せばいいのかわからず継続的に開催できないケースがあります。

前述したように1on1ミーティングは、ある意味では無駄な時間とも言える“雑談”をするための時間ですが、形式にとらわれ「1on1をすることが目的」になってしまっては、実施する意味がなくなってしまいます。

上司は、部下が積極的に話したくなるような話題を設定し、目的を持って1on1に臨む必要があります。

ここでは、5つの目的別に話題の例を紹介します。

部下の健康やメンタルに関する1on1(ワンオンワン)

上司にとって、部下の業務に対するモチベーションを含めた「心身状態の健康チェック」は、非常に重要な任務の1つです。毎回の1on1ミーティングで話題にするとともに、話している部下の顔色や仕草なども観察しましょう

<健康面、メンタル面に関する話題の例>
・残業を含む労働時間(業務量)の実態
・最近の睡眠状態、体調変化
・成功した仕事への賞賛
・失敗した仕事に関するフォロー
・部下の不平不満などに対するガス抜き

部下の業務に関する1on1(ワンオンワン)

部下が1on1ミーティングにおいて、上司に求めている1つに、自分が抱えている業務について、適切なアドバイスが欲しいというのがあります。

<話題の例>
・業務で気になっている、不安になっている、困っていることはないか。
・未完了の仕事について、何か問題が生じていないか。
など、部下から切り出しやすい雰囲気をつくってあげましょう。

部下の評価やキャリアに関する1on1(ワンオンワン)

部下の目標設定や、キャリアに関しての話題は、部下自身も非常に関心の高い項目の1つですので、積極的に取り入れましょう。

<話題の例>
・現在の業務に対する自己評価
・部下自身が感じている強みと弱み
・将来チャレンジしたい仕事や夢
・社内でのキャリア、所属を希望する部署など
・今勉強している、あるいは今後勉強したいと思っていること

お互いのプライベートに関する1on1(ワンオンワン)

上司と部下双方のプライベートに関してお互いに理解を深める上で、1on1ミーティングの場は適しています。部下のプライバシーには十分に配慮しつつ、積極的に話題に取り入れていきましょう。

<話題の例>
・気になっている時事ニュース
・最近、よく見ているテレビ番組
・趣味の話、最近はまっていること
・家族のこと(十分、配慮したうえで)、家族との過ごし方
・行ってみたいお店などの情報交換

1on1(ワンオンワン)を成功させるテクニック

1on1ミーティングすべてが雑談になったり、あるいは業務の話題ばかりになったり、話題が偏ってしまうのは傾向としてはあまりよくありません。同じように、1on1ミーティングにおいて上司から部下への関わり方や接し方も、偏らないようにする必要があります。
そこで、重要なのは、「コーチング」と「ティーチング」スタイルの使い分けです。

コーチングとティーチングの使い分け

コーチングとは、相手への質問と傾聴を繰り返しながら、相手の行動を促すコミュニケーションスタイルです。例えば、「次に成功させるには、どのような方法をとっていくのが良いと思う?」という質問によって、部下自らが成功させるために具体的な方法を真剣に考えるようになります。

また、傾聴とは、真摯な姿勢で相手の話に耳を傾けて「聴く」技術であり能力です。傾聴で重要なのは、「あいづち」や「うなずき」など、しっかり聴いていることが相手にしっかりと伝わる態度と仕草です

一方、ティーチングは、指導に重点を置いているコミュニケーションスタイルです。コーチングの「相手方に考えさせる」とは異なり、「好ましい方向に相手を導く」というものです。

コーチングとティーチングの使い分けは、例えば、部下の入社年次や、その時点におけるビジネス環境などで、どちらのコミュニケーションスタイルをとるべきかを判断しましょう。

傾聴

部下の声に耳を傾けるには、部下がどんな気持ちでいるのか、どんな精神状態なのかを見極めることと同義です。言語や話している内容をたどりながら、その背景に読み取ることが傾聴です。日本人の場合、自分の感情をなかなか表に出さないのが一般的です。そのため、早合点して強引に話を進めるのではなく、相手のペースに合わせながら丁寧に話を深めていくことが重要です。具体的には、相手の様子をよく見て、その場を察することが大切です。相手が話している間は、完全に聞くことに専念し、他のことに気を取られてはいけません。そのことを相手に気づかれてしまったり、信頼関係が崩れてしまったりしたら、コミュニケーションの目的を達成することはできません。

フィードバック

フィードバックとは、部下などの相手方の行動や言動などに対して、評価と改善すべきポイントを適切に伝えて、改善(軌道修正)を促していくことです。

1on1ミーティングでは、部下の成長に有益なことであれば、時には失敗の原因や努力の足りない点といった、厳しい事実について考えさせる必要もあります。その際には、一方的な叱責や批判はNGです。知らないことが原因の失敗であれば上司によるティーチングが必要ですし、自分で答えを見つけられるだけの能力や経験が部下にあるのであれば、気付きを促す質問を上司から投げかけるコーチングで、部下自身に考えさせましょう。

1on1(ワンオンワン)実施のアドバイス

おそらく上司であるほとんどの人にとっては、こうしたコミュニケーション手法はハードルの高いものと感じられるかもしれません。しかし、普段から頻繁にコミュニケーションを取っており風通しのよい上下関係を築けているようであれば、あとは少しの工夫で十分に実現できるものなので安心してください。

部下が話したくなる雰囲気を作る

上司は1on1の面談で、「部下が話したくなる」雰囲気作りを心がけてください。部下から話を引き出すためには、相槌のひとつから質問の仕方まで、きめ細やかな気配りが求められます。難しいように思えますが、日常的に部下とやりとりをしているようであれば、どういった関わり方がその部下にとって有効なのかを察することは、さほど困難ではないはずです。

なお、「話したくなる雰囲気の作り方がわからない」と声が上がるようであれば、管理者向けの社内研修導入も合わせて検討してみましょう。ここでは、「部下が気がねなく発言でき、本来の自分を安心して上司にさらけ出せる」という「安心・安全な場」作り(心理的安全性の確保)をファシリテートできるスキルを管理者に身につけさせることが不可欠です。

部下の内省を促す

上司たるもの、どうしても部下へ方向性を示したり、解決策を提示したり、時には指摘を行ったりしたいこともあるでしょう。しかし、1on1においてもっとも重要なのは、部下が自ら考え、自ら実行することです。会社やメンバーにとって損害となるような危険な選択肢に向かっている場合でなければ、部下の決定を尊重することも上司の務めと言えます。

雑談で終わらせない

1on1を雑談だけで終わらせずに効果的な1on1をするためには、雑談になる原因を理解することが大切です。雑談になってしまう原因には以下のようなものがあります。

・ミーティングの目的やアジェンダが明確でない

・ミーティングの進行を管理するスキルが不足している

雑談になってしまう原因をおさえた上で、実施前の準備をする、内容を記録する、継続的に取り組みなどの1on1ミーティングを有効的な時間にするためのポイントや成功させるためにすべきことを実施しましょう。

1on1(ワンオンワン)は部下と共に成長するための施策

実のところ、1on1自体はそれほど特別な施策ではありません。簡単に言ってしまえば、部下の自律性と自発性を促すよう上司が仕向けるという、コミュニケーションのありようを示すものです。1on1の導入は、日本企業の人材育成やマネジメントにおいて、上司と部下との関わり方をあらためて見直す良い機会でもあるでしょう。

まとめ

1on1(ワンオンワン)は、業務や状況といったタスクを共有する場にも活用できますが、本質的には1対1の関係性を構築する絶好の機会です。このような関係性は会社の資産になり、チームの問題発生や危機に対して、関係性がモノをいうタイミングが必ず来るでしょう。もし、所属組織が、1on1(ワンオンワン)を実施することを推進しているのであれば、ぜひ真剣に取り組んでみましょう。

よくある質問
  • 1on1ミーティングとは何ですか?
  • 上司と部下が一対一で行う面談です。1on1は、週に1回、最低でも1ヶ月に1回の短いサイクルで定期的に実施されます。また面談の時間も長くて30分程度です。上司は部下から日常の悩みや不安、業務に関する課題感などに耳を傾けて積極的に引き出すことが目的です。内容が一方的な通達ではなく「対話」であることから、同じ目線で対話を行うことが前提

株式会社ソフィア

ワークショップデザイナー

幾田 一輝

社員意識調査を通じた組織課題の分析から、IT・人事分野の改善施策の企画立案、施策実施に向けた伴走支援を担当しています。改善施策の中では、ワークショップの企画、設計を得意としています。

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幾田 一輝

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