戦後ドイツを代表する芸術家、アンゼルム・キーファーが創作した作品群と、その生涯に迫るドキュメンタリー映画｢アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家｣が、 6月21日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他にて全国公開される。

1945年、ドイツ出身のアンゼルム・キーファーは、ナチスや戦争、神話などのテーマを、絵画、彫刻、建築など多彩な芸術表現を通して壮大な世界を創造する戦後ドイツを代表する芸術家。1970年代から80年代にかけて隆盛を極めた“新表現主義”の代表的な作家であり、1991年には高松宮殿下記念世界文化賞 絵画部門を受賞し、国際的な評価を確立する。キャリア初期の作品の中には、戦後ナチスの暗い歴史に目を背けようとする世論に反し、ナチス式の敬礼を揶揄する作品を作るなど“タブー”に挑戦する作家として美術界の反発を生みながらも注目を浴びる存在に。1993年からはフランスに拠点を移し、わらや生地を用いて歴史、哲学、詩、聖書の世界を創作で表現。彼の作品に一貫しているのは、戦後ドイツ、そして死に向きあってきたことであり、“傷ついたもの”への鎮魂を捧げ続けている。

本作は、フランス バルジャックにあるアトリエを中心に、アンゼルムが創作した膨大な作品群を彼が歩んできた人生と共に辿るドキュメンタリー映画である。監督を務めたのは、アンゼルムと同じ1945年生まれのヴィム・ヴェンダース。｢パリ、テキサス｣(1984)、｢ベルリン・天使の詩｣(1987)などの劇映画に加え、｢ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ｣(1999)などのドキュメンタリー作品、さらに近年では、役所広司主演の｢PERFECT DAYS｣(2023)でアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされたことも記憶に新しい、言わずと知れたドイツの名匠である。

ヴェンダースは、制作期間に2年もの歳月を費やし、3D&6Kカメラで撮影を敢行。従来の3D映画にある飛び出すような仕掛けではなく、絵画や建築を立体的であたかも目の前に存在するかのような奥行きのある映像で再現した。ヴェンダース自身も｢先入観を捨てて、この衝撃的なヴィジュアルをただ楽しんでもらいたい｣と語っているように、ドキュメンタリー作品における新たな可能性を追求した映像表現となっている。